December 31, 2022

ウェルスナビで考える、次世代金融インフラの在り方

今年は、仕事の一年だったこともあり、またしても一年間ブログの更新を怠りました。。来年はもうちょっと書きたいと思います。

せめて年末滑り込みの投稿ということで、今回はロボアドバイザー「ウェルスナビ WealthNavi」についてです。

個人的には、自分で調べて自分で資産管理するのが好きなので、手を出していませんでしたが、今回、知人が転職をしたことをきっかけに、ウェルスナビを始めてみました。

全自動資産運用と名乗るだけあって、情報開示にはこだわりを感じます。特に、預けたお金がどのように運用されているかの運用結果や手数料だけでなく、その運用ロジック部分も丁寧に解説してくれている「資産運用アルゴリズム」なるWhite PaperがHPに掲載されていてとても秀逸だったので紹介したいと思います。


1. ネーミングって大事だよね

「ロボアドバイザー」っていうと、自らの虎の子のお金を得体の知れないコンピューターに預けて、任せる、みたいな、ちょっとしたうさん臭さすら感じたりするけど、ウェルスナビの資産運用の中身は確固たる経済理論に基づいたきわめて堅実な資産運用です。MBAでも必修科目であるファイナンスの基礎で習う現代金融理論(Modern Portfolio Theory)に基づいた長期国際分散投資をベースとしていて、投資のバイブルとされる「ウォール街のランダム・ウォーカー」をそのまま具現化したような投資手法です。

ウェルスナビのサイトとかを見ると「ロボアドバイザー」ではなく「全自動資産運用」って呼ぼう的な意図を感じます。(マーケットシェア的にはロボアドバイザーでくくられるので、その文脈ではロボアドNo.1として出てきます)

「全自動資産運用」って響き、「全自動洗濯機」を彷彿とさせるなぁ。洗濯機が三種の神器として戦後復興の象徴だったように、ウェルスナビも貯蓄から投資への変化のきっかけになれるのでしょうか? でも「全自動資産運用」って、堅いなぁ。シングルプロダクトであるがゆえに、そのサービスを端的に一言で表すもうちょっとなじみやすい呼称があるといいな、と思ったりします。CMやYouTube広告でも多く露出してるので、堅実さ、誠実さがあって、でもとっつきやすい誰にでもわかる呼び名を連呼する、とか。マス広告は機能よりも印象、ブランディング浸透にもっと振ってもいい気がします。


2. 投資内容は?

投資の中身はいたってシンプル。複雑さを極力排除しようという意思すら感じます。世界の基軸通貨であるドル建てETFによる市場全体へのインデックス投資。ロジックの精緻さよりも分かりやすさ、腹落ち感を重視した投資内容はとても好感が持てます。それぞれのユーザーのリスク許容度をシンプルに5段階評価。預けるお金の行き先は7つの資産クラスに分類。興味深いのは、債券クラスにインフレヘッジのための物価連動債を含めています。(物価連動債はリスク許容度が低い人のポートフォリオにのみ組み込まれるので、実際は、株・債券・金・不動産について世界分散投資をするきわめて教科書的な構成です)

投資対象の銘柄も超シンプル。選定基準も開示されていて、

・インデックス投資

・純資産総額が大きい

・流動性が高い

・法令上届け出がされている

・低コスト

のETFです。

それぞれの資産クラスについて銘柄を一つに絞っているのもシンプルでいいです。

金はコスト面から新たにIAUが選ばれているので、State Streetがなくなり、いよいよ2社に絞られてしまいました。株式ETFはすべてVanguard、その他の債券、コモディティはBlackRock。リスク許容度が一番高い5の場合は、資産の85%は株式なので、ほぼVanguardのポートフォリオが出来上がります。

ここで、リスク許容度が高い人にとっては、じゃあVanguard直接買えばいいんじゃないの?って思っちゃいますね(それだけでも年0.5%はパフォーマンス上がるし)

ウェルスナビは誰向けなのでしょう?


3. ポジショニング&ターゲティング

そうなんです。そもそも、もっとリスクを取りたい人とか、自分で海外ETFを買おうとするような人はウェルスナビとは親和性が低いのかもしれません。ウェルスナビのミッションにもある「働く世代に豊かさを」。サイトのいたるところに出てくるのが、「働く世代」っていうキーワード。



決算説明資料においても20-50代がボリュームゾーン、まさに働き盛りで、仕事、家庭、プライベートで忙しい時期の人々がターゲット。時間はないけどお金は眠ってるような人が想像できます。日々市場をウォッチする暇なんかなく、かといって銀行にお金を眠らせておくのももったいないと思うような、資産運用マニアでもなく金融・経済不感症でもない「お金のことはちょっと気になるけど、面倒なことはしたくない」人をターゲットしているかんじです。

ウェルスナビが提供するプロダクトは、アクティブ投資でないので、差別化が図りにくく、かつ、ウェルスナビは他の金融・証券会社が狙うマスターゲットである高齢富裕層でもない、そこまで多くない働き盛り世代を主軸に据えています。

そんなこれからの日本を支えるガンバる世代を支える金融インフラに育ってほしいというエールを込めて以下結びたいと思います。


金融とか個人とかを超えて、顧客の立場から真の全体最適を支援するインフラになってほしいと思います。個人といっても、人にはいろんな顔があるし、人生お金だけじゃなく大切なアセットは山ほどあります。現状のウェルスナビの思想は、全ての資産をウェルスナビでカバーし、その中において最適化する設計になっているので、ウェルスナビの中だけで見れば、リスク・リターンの効率性としてはベストかもしれません。

でも、現実的には誰しも銀行預金があったり、家のローンがある人とか、貯蓄型保険に入っ(ちゃっ)てる人もいるわけで、もうちょっとややこしい中で生きてます。さらには経済的資本だけでなく、人的資本とか無形資産も含めてその人のライフステージに応じた人生のバランスを考えた方がいいので、“自分のところだけで最適化”でなく、“ユーザーの人生全体を最適化するための一つの部品”を提供しますよ、っていうスタンスの方が、本当に人に寄り添ったサービスじゃないかなと思います。

経済的資本のコアを担うポジションで行くのであれば、ウェルスナビとしてはインデックスで勝負なので煎じ詰めると、いかに経費率を下げて、顧客の長期的パフォーマンス向上にその取り分を分配してあげるかが問われます。模範となるロイヤルカスタマーを上手く選んでその人の経費率を下げる仕組みを導入する。(長期割をもっと手厚くするとか、預かり資産に応じて経費率をディスカウントするとか)

また、同時に、ユーザーが真に実現すべき“人生全体最適化”を後押しするような、経済的資本の外に目を向けさせる啓蒙活動に力を入れる。例えば、新社会人に対して、経済勉強のちょっとの投資と、その後の職業人生を豊かにするコネへの投資としての交際費活用術とか。子育て離れで時間ができ始めた人へのリスキリング投資の促進とか。

お金についてはちょっと手数料頂戴するけどウェルスナビに任せてもらって、浮いた時間をお金以外の大切なことに向けてもらえるように、ユーザーを啓蒙していく。ウェルスナビ自身も事業のスコープを広げていくことが大切なんじゃないかな。ウェルスナビっていう名前の認知がある程度取れたら、次はコンテンツ。CM以外にもそういう啓蒙セミナーとかオウンドメディアとか充実させて、貯蓄から投資の真の意義を世に広めていくような活動。


サービス開始から6年。経営も黒字化し、これからビジネス規模、利益が求められていく中で、決算発表で今後の展開としてこんな図が示されていました。

様々な金融サービスが総花的に周囲を囲んでいる、顧客の財布のひもを握っちゃうぞ!的なプラットフォーム思想には若干の違和感を感じます。

ネットの世界でWeb2へのアンチテーゼからWeb3への流れが生まれているのと同様で、金融においても、真ん中にどんと居座って全て自分のところで丸抱えするのでなく、自らの立ち位置を研ぎ澄まし、謙虚さを持ってわきまえながら顧客に寄り添うスタンスが今時じゃないかな。"ロボ"でなく本当の意味での"あなたのアドバイザー"になってほしいとの思いで、自らの虎の子を少しだけ預けてみようと思います。