November 7, 2010

【賃貸vs分譲 永遠のテーマに終止符を】 最終章!結論。(5分でできる診断ツール付)


前々回はモデルケースを用いて主に数字の面から分譲と賃貸を比較した。前回はそれに加えて、同様に重要である数字に換算しにくい定性的な側面も盛り込み、漏れのないよう両者のメリットとデメリットを洗い出した。今回はそれらを踏まえた上、どうやって意思決定を下せばよいのかを提案したい。客観性と公平性を確保する為に、私自信と私の知人の2つのケースを用いて説明する。

繰り返しになるが、賃貸がよいか分譲がよいかという問いに、誰にでも普遍的にあてはまる唯一解は存在しない。確証の無い前提に基づき、それらの損得勘定を精査しても優位差は見いだせない。また、前回列挙した項目のどれに重きを置くのかは人により異なり、その優先順位によって買うべきか借りるべきかは変わり得る。(当たり前すぎてつまらないことかもしれないが、、)つまりどちらに関わらず、意思決定をするにあたり良く考え“よく納得する”ことが、決断に自信を与え、その後のパフォーマンスを上方修正してくれる。“よく納得する”為の一助になればと、『優位性診断ツール』を作ってみた。


優位性診断ツールについて
(実際のツールは文章下部のリンクボタンもしくは左のUseful Toolをクリック)

図1:分譲vs賃貸優位性診断ツール(出力イメージ)


図1上部の座標は、分譲と賃貸との相対的な優劣を表す横軸、各検討項目間の相対的重要度を示す縦軸からなる。以下に示す検討事項9項目について重要度並びに分譲と賃貸のパフォーマンス(分譲と賃貸の2つの選択肢x9項目=計18点)を評価し座標上にプロットしていくわけである。

横軸は分譲vs賃貸の相対的なパフォーマンスを表す為、横軸の真ん中に点が位置する場合は分譲、賃貸の優劣に差はなく、全く同じ評価ということになる。逆に横座標で分譲と賃貸が極端に離れている場合は、そのパフォーマンスに明らかな優劣があるということである。
縦軸は各検討事項の相対的重要性を表す。縦座標で上にあればある程、その検討事項は評価者にとって重要ということになる。逆に下であればその分、重要度は低いということになる。(縦軸の真ん中の場合は、その項目の重要度は、全項目の重要度の平均値と一致する、つまり平均程度に重要ということである。)

以上から、右上の象限に点がくれば自分にとって、その評価項目は重要かつ優れているということになる(主たる動機となる点)。また、左下の象限に点がくれば、劣っているけれども、自分にとっての重要度は低いことになる(別に無視してもよい点)。重要な示唆を与えてくれるのは左上の象限である。左上に点がきた場合、それは重要であるけれども劣っていることを意味している(妥協をしなくてはならない点)。それぞれの点の位置を見ることで、選択決定の際にどの点を自分は“かっていて”どの点において自分は“妥協をすることになる”のか一目瞭然となる。

2次元で表された検討項目は示唆に富んだ情報を与えてくれるが、より端的に分譲、賃貸のどちらが優れているのか数値化したのが下部の優位性評価インデックスである。それぞれの点の位置情報からどちらの方が評価者にとって優れているのかを1次元的に数値化したものである。数値がより高い方がその人にとって良い選択というになる。(具体的には、インデックスは相対的パフォーマンスをそれぞれの相対的重要度で加重し、平均値をとった数値である。)


この初回版のモデルに組み込んだ検討事項は以下の9項目である。(経済的損得をあえて含めなかったのは、先にも述べたように想定次第でその優劣は容易に入れ替わってしまうからである)

[経済的事項]
1.資産の流動性
2.インフレ耐性
3.災害時のリスク耐性

[利便性事項]
4.引越しの容易さ
5.物件のグレード

[精神面事項]
6.支払の精神的負担
7.所有欲の満足度
8.老後の安心感
9.社会的信用の獲得


これらの各項目についてその重要度、ならびに分譲と賃貸に関するパフォーマンスを1-7で評価していく。


図2:分譲vs賃貸優位性診断ツール(入力インターフェイス)


重要度については:1=全く重要でない、4=中立、7=非常に重要 として前9項目について評価をする。
パフォーマンスについては分譲と賃貸、各々についてそれぞれの検討項目を1-7の値で評価していく。

各評価項目の定義は以下の通りである。
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1.資産の流動性:
投資や財務に疎い方は流動性の概念が理解しにくいと思うが、購入する不動産もすべて含めた自己資産がどれだけ容易に換金できるかということ。分譲購入を選択した場合と賃貸で行くと決めた場合で、自己総資産がどの程度固定されてしまう(好きな時に現金化できなくなる)のかということ。現金化しにくくなるのであれば流動性は低くなる。逆に、容易に現金化できるのであれば流動性は高いということになる。

2.インフレ耐性:
分譲を買った場合と賃貸で行く場合において、将来インフレ(賃料の上昇など)が起こった時、家計に占める住宅費がインフレに対して強いかどうかということ。

3.災害時のリスク耐性:
万が一の災害(地震や火事など)が起こった場合、住宅がそのようなリスクに強いかどうかということ。

4.引越しの容易さ:
(分譲の場合は、買ってしまったからなどといった)条件に縛られずに好きな時に自由に引越しが出来るかどうかということ。

5.物件のグレード:
住居の内装、設備やインテリアのグレードがよいかどうかということ。

6.支払の精神的負担:
分譲の場合は主にローン、賃貸の場合は主に賃料の支払いを精神的に負担と感じるかどうかということ。(ローンの場合は、借りているお金を返さなくてはならないということが精神的にプレッシャーになるかも考慮する)

7.所有欲の満足度:
家を所有したいという欲求をどの程度満たしてくれるのかということ。

8.老後の安心感:
賃貸ならびに分譲の場合、老後に対してどの位安心できるかということ。

9.社会的信用の獲得:
持ち家を持つもしくは賃貸で行くことで(例えば、与信審査や世間の目などといった観点から)社会的信用が得られるかということ。
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私の場合

まずは私自身、自分と向き合い評価をしてみる。
『強調しておくが、ここからが私見の部分(あくまで、私の場合)である。』

1.資産の流動性
重要度「6.5」/ 分譲のパフォーマンス「1.5」/ 賃貸のパフォーマンス「6.5

私にとって最も重要なポイントである。分譲は明らかに流動性の面で賃貸に劣る。市場の環境に応じてポジションを変えたいので資産の大部分が不動産という形で固定されてしまうことは、ポートフォリオの柔軟性の観点からも大きなデメリット。さらに流動性が低いということは、随時、資産価値を把握できないということで、目標リターンを持って積立投資をしているものにとって、パフォーマンスのモニタリングが出来なくなり、これも困る。やはり家計の経済活動における資産の流動性というものも、人間にとっての血液同様、さらさら健康でなくてはいけない。

2.インフレ耐性
重要度「4.7」/ 分譲のパフォーマンス「5.5」/ 賃貸のパフォーマンス「3

前回も言及したが、分譲にはある程度のインフレヘッジ効果があることは認める。個人的に、いつかはインフレは起こるのではと思っている。いつか分からないけれども実際に起これば、インフレが資産に及ぼす影響は無視できそうにないので、ヘッジは重要と考える。ただし、何も単一の現物資産である住処としての不動産にその効果は期待しない。いつ来るかわからないリスクヘッジの為に、とるリスクにしては大きすぎる。株式への投資やREIT、多少のコモディティーへの投資等、もっと流動性の高いインフレヘッジの代替商品は沢山ある。それでも対処できないような過度なインフレが起こったら、まず素直に家賃が安いところに引っ越すことを考える。言わずもがな、そんな状況が起これば、ピンチになるのは私だけでなく、日本や世界経済全体が狼狽してしまうはず。

3.災害時のリスク耐性
重要度「4.2」/ 分譲のパフォーマンス「2」/ 賃貸のパフォーマンス「6

万が一の場合、賃貸はいつでも出て行けるのでリスク耐性は高い。しかし、忘れてはならないのが、万が一の災害が本当に「万が一」の事であれば、心配しすぎることがかえってコストになるということ。もちろん万事の事態に備えるに越したことはないが、十分な余剰資金の確保が何よりの不安緩和剤となる。ゆえに、わずかに重要といった程度。

4.引越しの容易さ
重要度「6」/ 分譲のパフォーマンス「3」/ 賃貸のパフォーマンス「6

賃貸の方が明らかに引越しは簡単である。簡単に引越しが出来るかどうかということは、単に将来の自分のキャリア上、職場がどこになるか定かでないということだけでなく、ライフステージによって一緒に住む家族構成が変わる等といった点からも重要と考える。それらの状況変化に対して臨機応変に部屋の立地や大きさを引越しにより自在に変えられることは、引越しにかかるコストを埋め合わせて余るくらい大きなメリットとなる。また、近隣とのトラブル等生じた場合、賃貸なら簡単に出て行くことが出来る点も有利。

5.物件のグレード:
重要度「3」/ 分譲のパフォーマンス「6」/ 賃貸のパフォーマンス「4

一般的通念では分譲用マンションの方が賃貸物件に比べグレードが良い。もちろん昨今、賃貸物件でも分譲同様に上質に作りこんだ物件も増えてきてはいる。分譲の物件が賃貸として出されるケースも多い。私自身、豪華なロビーとか生ごみディスポーザーとか不要な付加価値に別段興味はない。最低限のセキュリティーや宅配ボックスなどがあれば十分なので、この項目の重要度は低めである。

6.支払の精神的負担:
重要度「5.5」/ 分譲のパフォーマンス「1」/ 賃貸のパフォーマンス「5.5

住宅費の支払いがメンタル面に及ぼす影響は無視したくない。ローンの支払いが常に頭の片隅から離れず、それがリストラ・失業の不安を増幅させるなどといった日々の精神的重荷だけでなく、住宅ローンのような長きにわたる借金はやはり、長期的にもキャリアやライフプランに良かれ悪かれ大きく影響を及ぼす。ローンの存在が夢や可能性の芽を摘んでしまう恐れも十分にある。一方、人によっては、ローンの強制的支払いが浪費癖を抑制し利点となる場合もあるかもしれない。しかしながら、節約したお金での積立投資を主体としたい私にとって、ローンはデメリットとなるだけでメリットにはならない。多くの投資本が示唆するように、金を借りているうちは投資はするな、という助言に忠実でありたい。

7.所有欲の満足度:
重要度「1.5」/ 分譲のパフォーマンス「7」/ 賃貸のパフォーマンス「1

物欲のあまりない私にとってこの点は、全くと言っていい程重要でない。分譲肯定派にとって最もポピュラーな理由付けはこの点ではないかと思う。所有の欲求というのは人によって千差万別。所有欲の強い人にとって、自分のものということへのこだわりはまさにプライスレス。借家に住むのと、ローンを組んでいながらも(他から借りたお金であるのだが、、、)買った持ち家にすむのとでは、そのような人にとっては住み心地が全く異なるようである。少なくとも私には当てはまらない。借家を恥じることも無ければ、ローンを組んで買ったからといってそのこと自体を誇ることもない。所有に対するこだわりは全くと言っていい程重要ではない。日本に古くからはびこる持家信仰は、バブル以前の不動産価格が右肩上がりだった時代の産物であり、いまどきでないと思う。

8.老後の安心感:
重要度「5」/ 分譲のパフォーマンス「5.5」/ 賃貸のパフォーマンス「2.5

老後に対する不安は歳とともに増えていく。少なからず、自分が学生の頃はそんなことは微塵も気にはしなかったが、現時点ではやや気にかけるといった程度。もちろん分譲の方がローン完済後、住処に頭を悩ませる必要がないという理由から老後の安心感は高い。が、裏を返せばその物件に住み続けなくてはいけない(もちろん売れれば他に移れるが、、)という足かせにもなり得る。一方、賃貸は高齢になると審査が通らないことや将来の賃料の上昇等、不安要素は多いのは事実。

9.社会的信用の獲得
重要度「1」/ 分譲のパフォーマンス「6」/ 賃貸のパフォーマンス「4

最も重要でない要素。持家だとクレジットカードの審査上有利に働くなど実生活の一部で、持家であることが評価される場面があるにはある。統計的に持家派の人の返済能力は高い。故に、より信用が出来るという理屈も分かるが、それが当てはまらないケースも沢山ある。しっかり毎月の支出を管理して賃貸で住んでいる人も信用性は十分高いと思う。逆に、分譲派でも住宅ローンに金利上昇が伴って、未払いに陥るということも起こり得る。とにかく、分譲=信用が高いというロジックはつっこみどころが満載である為、まったく重要でない。

以上の私の個人的な評価に基づいた結果は以下の通りである。

図3:私の結果


インデックスに注目すると2倍近くの差で賃貸の方が優位という結果となった。マトリックスについては、赤い点が賃貸を表し、青の点が分譲を表す。先に説明したように、資産の流動性が高い、引越しが容易、支払の精神的負担が軽いことなどが、私には賃貸が向いている理由である。一言で言うと、フットワークは軽くありたい、ということが一目で見てとれる。左上の象限に注目すると赤い点が二つ。老後の安心感とインフレ耐性については賃貸の足を引っ張る要素となっている。賃貸でいくのなら妥協をしなくてはならない点である。その他、社会的信用、所有欲、物件のグレード等は私にとって重要でないので、総合評価にあまり影響を及ぼさない。現時点において、賃貸の方が向いているというのが私の結果である。


知人の場合

公平を期す、というか、モデルの中立性を確かめる為に、私とは別の考えを持った知人にこの診断ツールで評価を行ってもらった。彼も私同様、買うか借りるかについて検討中である。

彼の診断結果は以下の通りであった。

図4:知人の結果


彼の場合、私と逆の結果で倍近くの差で分譲が優位であるという結果となった。主な理由は所有欲を満たしてくれる、老後が安心、社会的に信用も得られるからである。資産の流動性についてはその重要性は認識しているものの、分譲購入により流動性が低くなってしまうのはいたしかたないといった感じ。私との大きな違いは、引越しをあまり考えていないという点である。仕事が私と比べて安定しているせいもあるのか、落ち着いて定住したいという気持ちがある為、引越しが簡単にできるかどうかは彼にとって重要ではない。この診断結果から、彼にとっては賃貸よりも分譲の方がよいということが言える。

以上の例のように、検討項目の重要度、優先順位が変われば、分譲と賃貸どちらがその人にとって有利となるかは変わる。当たり前のことであるが、このツールでも同様に確認できた。


ツールの使用に際して

実際に、今マンションを購入しようか、賃貸のままで行こうか思案中の方にも是非、判断材料としてツールを活用してもらいたい。また、例えば妻と旦那とで意見が食い違う場合にもこのツールで考えを見える化させることで、どの点が共感できて、どの点が議論が必要かが一目瞭然となる。

[Adobe Flash Playerのインストールが必要です]
[開いてから操作可能になるのに少し時間がかかります]
[座標の点の上にマウスを載せると、その点が表す評価項目名が表示されます]
[β版ということで、エラー、改善点などありましたらご一報下さい]


使用方法は直感的で簡単であるが、分析結果の精度を高める為、幾つか注意点がある。

------注意事項------------------------------------------------
・ それぞれの検討事項がどんな定義で何を意味しているのかを真に理解することが第一。特に予備知識の無い方には、自己資産全体の流動性の概念やインフレがどうして関係するのか等、丁寧に説明したつもりではあるが、きちんと理解の上で評価する必要がある

・ 自分にとっての評価である。世間一般の印象や、近くの友人の影響等よりも自分で考え、自分にとってどの程度重要か、そしてその優劣を自分と向き合いなるべく客観的に評価すること

・ 1-7(0.1刻みで)の評価であるが、出来るだけスケールをフルに使うこと。答えが真ん中に集まりすぎると各々違いが分かりにくくなり、インデックスの差も小さくなる
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最後に、

終わりのない議論「分譲vs賃貸」に終止符を打つという大きな目標を掲げて、3週に渡って分譲と賃貸について考えてきた。経済的要素、定性的要素を丁寧に考えて行くと、(普通すぎてつまらないかもしれないが、)やはり分譲がいいのか賃貸がいいのかは人それぞれであるという結論に至る。では、今現に悩んでいる私に助言を!という声が聞こえてきそうなので、手助けツールを作ってみた。きちんと使用方法を理解して使えば、ある程度は的を得た結果が出るものと思う。途中にも述べたことだが、どっちの方が絶対的に得だという意見はあまりに乱暴で、明らかに間違いであり、どっちが良いかなど人それぞれである。重要なことはそれを多角的にきちんと検討したうえで、方向性を決め、今後の人生で貫いていくことである。どうして自分にとって分譲の方が良いのか、どうして自分にとって賃貸の方が良いのか、自覚しながら人生を歩みたい。そうすることで、どちらの選択をとったにせよ、軸のぶれなくなり、その分だけパフォーマンスは向上するはずである。

こうした思考の末、私自身今思うのは、現役時代は賃貸で過ごし、生活余剰資金で投資を続ける。仕事から引退する頃にでも、育っているであろう資産を元に、現金で住処を買えればよいなとうっすら思っている。東京、日本とは限らない、どこかスローで温かいところにでも居を構えるのが良いのかもしれない。

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