October 30, 2010

【賃貸vs分譲 永遠のテーマに終止符を】 包括的メリット&デメリット

先週は、主に数字の面から分譲と賃貸どちらが得かを考察した。今回のケースの場合60歳の時点では、どちらの方が得であると結論付けるに足る有意差を見出すことはできなかった。想定が変わることで、その優劣は簡単に入れ替わる。前もってその損得勘定を精査すること自体あまり意味はないということが言える。決断にあたりより重要な事は、金勘定以外の要素も含め“よく納得する”ことである。よく納得することで、自分がどうして分譲派なのか(もしくは、賃貸派なのか)が明確になり、その後の住居に対する考えに一貫性が出てくる。そうすることでどちらを選んだとしても、最終的にはお得だったという結果が後から必ずついてくるはずである。

それでは、“よく納得する”為に欠くことのできない様々な検討項目について、経済面、利便性、精神面に分けて、それぞれの一長一短を見ていこう。

[経済面]

資産の流動性

  • 分譲は売りたい時に売れるとも限らない為、万が一の支出に対応し難い。(別途十分な生活余剰金の確保が必要)
  • 資産ポートフォリオが不動産に偏り、市況に柔軟に対応できない。不動産が資産のポートフォリオに占める割合が高くなる上、流動性が低い為市況に応じて容易にリバランス(資産の再分配)ができない。
  • 流動性が低いことは言い換えれば、資産価値がリアルタイムに把握できない。他の投資資産と異なり現物資産である不動産の資産価値を正確につかむことは難しく、自分の資産がどのくらいか把握しにくい。
  • 賃貸の場合、資産は不動産に縛られないので、これらのデメリットはない。

結果としての不動産の有無

  • 分譲の場合、ローン完済後には不動産という資産が残る。ただし、残るとしてもそれなりの年数を経た古い物件の為、その資産価値は疑問である。築年数を経た分譲マンションの資産価値については誤解が多い為、いくつかのデータを見てみよう。

東日本レインズの2010年3月の築年帯別中古マンション成約状況を見てみると、築0-5年の中古マンション成約平均価格は4040万円。築31年以上の平均価格は1271万円。ざっくり30年近く経ると価格は約7割減の3割になってしまう。[1]

また、別の切り口から見てみよう。不動産査定マニュアルの作成を行う不動産流通近代化センターの不動産価格査定方法によれば、築年数15年までは-1.5%/年、16-20年では1年古くなるごとに-2%、築年数21年以上では-2.5%/年で、築年数に応じて以上の割合で査定価格を下げていく。築30年の物件であればそれだけで、累積-57.5%となる。つまりプロが査定すると30年経っているというだけで、物件は購入時の約4割の資産価値になってしまう。[2]

あての無い希望的試算に基づくことなく現実をきちんと見据えた上で、買うか借りるかの決断をすべきである。

  • その他、ローン完済後にその物件に住み続ける場合には賃料が発生せず、住居費が格段に抑えられる。分譲の大きなメリットである。
  • しかしながら、一戸建ては土地があるからまだましだが、分譲マンションは基本、土地がないので不動産としての価値は限定的。(東日本レインズのデータからも、土地付き一戸建ての方が分譲マンションに比べて遥かに値崩れ率が小さいことが示されている。30年後の一戸建ての平均成約価格は購入時の約6割である。[1]
初期資金の使い道

  • 分譲の場合は、初期資金の頭金は不動産という形に変わり保有されることになる。不動産が値上がりしない限り、その頭金は時間とともにその価値を減らしていくことになる。
  • 賃貸の場合は、分譲購入の頭金に使わなかった分を投資に回せる。重要なポイントなので、ケースに基づいて詳説する。
では、頭金を払い分譲を購入した場合と、賃貸に決め分譲を買わなかった浮き分を投資に回した場合とどちらが得か、先の例同様に30-60歳の場合について考える。

分譲の場合、最初の持ち金800万円を全て不動産購入に充ててしまう為、そのほかの投資はできない。30年後の60歳時点で残る資産は唯一不動産だけである。上記のケースの場合その資産価値は購入価の37.5%の1312万円である。
一方賃貸の場合、最初の持ち金800万から引越し費用90万円を除いた710万円を投資に回すことが出来る。710万円を30年間複利運用した場合の資産総額は以下のようになる。

710万円を約2.1%で運用できれば30年後の資産はほぼ分譲の30年後の資産価値と一致する。つまり2.1%以上で運用できれば、60歳時点においては賃貸の方が得ということが言える。損得の結果は、もちろん賃貸派の運用成績と分譲派の物件の資産価値との力関係で揺れ動くことになる。

(ここでは、簡略化の為、途中のキャッシュフローは省略し最初の資金のみに注目した。分譲の方が賃貸に比べてランニングコストが低いといった場合、分譲派もその差額を運用できるといった議論もあるが、分譲派の場合、たいてい余剰金は投資に回すよりもローンの繰り上げ返済に充てることになる。(ローンと投資の両天秤はリスクを高めることになる)とどのつまり、ローンの期間を縮めることはできても、分譲派はローン完済までの間は不動産資産オンリーという状況から抜け出せないのである。)

インフレ耐性

  • 分譲物件を固定金利ローンを組んで購入した場合、インフレによる住宅費上昇リスクを回避できる。今回のケースではインフレ率が0.5%/年から1%/年に倍になった場合、賃貸は30年後の総支払額が約500万円増えることになる。
  • 賃貸の場合、インフレによる賃料の上昇で住宅費負担が増えるが、頭金の残り分の資産をきちんと株式や現物資産に分散運用させることによりインフレをヘッジすることは可能である。運用成績次第であるが、30年後の500万円は十分にヘッジできる余地はある。

災害時のリスク耐性

  • 分譲の場合万が一の自然災害などにより住居が破損した場合、家主負担となるリスクがある。
  • さらに集合住宅の場合、災害や老朽化により建て替えが必要となった場合、居住者全員の同意がないと行えない等、修繕したくてもできないといった不自由な点も。
  • 一方賃貸の場合、修繕・改装は基本大家負担が負担するので、自己負担はゼロ。万が一の場合は退出すればよい。



[利便性]

引越しの容易さ

  • 生活スタイルの変化に応じて立地や間取り等適宜変られるので、無駄がない。
  • 万が一の近隣とのトラブルや思いがけない転勤、失業時に簡単に引っ越せる。

物件のグレード

  • 一般的に分譲物件の方が設備・内装などグレードが高く造りが良い。
  • が、最近賃貸物件も良くなってきている。(分譲物件が賃貸に出ることも多い)

家のカスタマイズ性

  • 分譲の場合、好みに合わせて室内を改造できる(一定の改装・修繕費はかかる)
  • しかし、分譲の場合は部屋の中身は変えられても、立地や近隣環境までは変えられない。
  • 賃貸は環境そのものが気に入らなければ、容易に引っ越しができる。また、新しい物件に引っ越すことで定期的に新しい住環境が手にできる。



[精神面]

支払の精神的負担

  • ローン支払いには精神的負担がある。
  • ローン支払いにより、夢や可能性の芽が摘まれる恐れがある。例えば、ローンがある為に独立開業に二の足を踏むとか、ローン完済するまでは早期退職できないなど。
  • 逆に人によっては、ローンがモチベーションとなる場合もある。浪費家の人にとってはローンにより、節約志向が生まれる。ローン返済の為に残業を厭わないなど。

所有欲の満足度

  • 所有欲の強い人の場合、分譲なら一国一城の主の気分を満喫できる。実はこの点が分譲派肯定論の本丸であると思う。持ち家志向の強い人であれば、「自分のもの」というような満足感は持ち家でないと満たせない。ただし、言わずもがな持ち家の満足感とローンによる精神的不安とは表裏一体。
  • 賃貸派は一生借主身分。

老後の安心感

  • 分譲の場合、ローンが完済すれば、それ以降住居の為の支出が格段に安くなる。
  • ただし、築年数が増すにつれ修繕・維持費は結構かかる。
  • よく考えなくてはいけないことが、30年も先の事である老後の終の住処を老朽化した築30年の住居に今のうちから確定させたいかどうかということ。(実際のところ30年間同じ分譲マンションに住み続ける世帯の割合はそう多くはない。)
  • 一方賃貸は、当てのない年金を頼りに、老後も賃料を払い続けなくてはならないという負担と不安。
  • 高齢者だと賃貸契約が結べない場合があることも不安要素。

社会的信用の獲得

  • 分譲派にとって住宅ローン審査を通ったという事実が自信を与える。
  • 持ち家をもって初めて一人前と見なす風潮も昔はあったが、今は古い考え方かもしれない。流れは所有から利用へ、アセットからフローへ。
  • ローンを組む時に、保証人が不動産を所有していると審査が甘くなるといったケースや自分名義の持ち家だとクレジットカードの審査が通りやすいといったケースはあるにはあるが。



[その他]
  • 今なら、住宅ローン減税など、分譲には各種優遇措置がある。(例にもあるように総支払額の3-5%程度の節約効果)
  • 分譲の場合、万が一ローン名義人が死亡した場合、団体信用生命保険が残債を支払ってくれるが、団信加入義務のあるローンの場合、保険料はそもそもローンの金利に上乗せされているという事実は忘れてはならない。その為、ローンを組み団信に加入した場合、保障の重複を避ける為、保険を見直しが必要である。


以上のように、自分にとって分譲と賃貸のどちらがより適しているかは、経済面のみならず利便性や精神的な側面などから包括的に考える必要がある。よくある過ちとして、多面的に判断するのではなく、思いつきにより特定の検討項目ばかりに着目し意思決定をすることが多々見られる。(そもそもそのような人は両者の一長一短を比較することなど最初から念頭になく、すでに答えが決まっている)。その結果、見過ごされたデメリットが後に現実となり後悔を生む結果となることがある。このような悲しい結末を避ける為にも、これらの項目をもれなくかつ、偏りすぎないように巧みなバランスで検討した上で、買うか借りるかを決めるべきである。これは決して他人との比較といった問題ではなく、自分の家庭環境・ライフプランと真摯に向き合い検討することが肝である。

最後に忘れてはならないこととして、ある特定の条件下では分譲が明らかに経済的に有利となる場合がある。比較目的からケースを単純化した為、今回のケースでは考慮されていないが、以下のような場合は分譲の方が得といえるであろう。(それは裏返せば、以下の条件のいずれかに当てはまらなければ、賃貸が勝ることもあるということである。)

[経済面で分譲が勝る条件]

1.ローン完済後もその購入物件に住み続ける場合


ローン完済後は分譲の方が賃貸に比べはるかに月の住居費が安く済む為、住めば済むほどその住居費には差が付く。ただし、築30年超えの物件に住み続けたいかはまた別の話。。

2.ローンを組まず現金で物件を購入できる場合

現金払いできると多くの利点がある。まず利息がなくなる分、総支払額をかなり抑えることができる。第二にローンの支払いがない為、住居費のランニングコストが極端に安くなる。(固定資産税と積立修繕費くらい。)それにより、節約できたお金を投資に回すことができる。(もちろん、分譲物件を現金払いできる程の蓄えがあるといった場合でも賃貸で行くという選択肢はあるが、賃貸が分譲より得になる為にはそれなりのリスクをとった上でそれなりの利回りでその持ち金を運用する必要がある。)加えて、ローンから解放されることにより、上記の精神面における心配がすべて払拭できる点は大きい。

3.ローンを組んですぐに死亡した場合

もちろん考えたくないケースであるが、団体信用生命保険付きのローンを組んで間もなく、不幸にも名義人が死亡した場合はローンがちゃらになる為、上記2.の場合と似た結果となる。但し、名義人(多くの場合稼ぎ頭)がいなくなってしまうことは、以後の収入が減ることに留まらず、家庭にとって何にも代えがたいデメリットであることは間違いないが。。


すでにお気付きと思うが、要はどの点に重きを置くかで買うべきか借りるべきかは変わってくる。
次週は、いよいよ本論。私自身をケースに、分譲か賃貸、どちらが勝るのかを総合的に検討する。


参考

[1] 築年数から見た首都圏の不動産流通市場(東日本不動産流通機構)
http://www.reins.or.jp/pdf/trend/rt/rt_201003.pdf

[2] 中古マンション査定NAVI(不動産流通近代化センターの中古マンションによる築年数と価格査定)
http://www.shirokumasan.net/satei/2007/10/post_7.html

October 23, 2010

【賃貸vs分譲 永遠のテーマに終止符を】モデルケース分析


今回から、3週に渡って分譲と賃貸について考えてみる。まずは具体的に考える為に両者の経済的側面についてモデルケースに基づいて考える。次にお金に換算できない定性的な価値も含めて両者の長短を考える。最後にそれらを包括的に考えたときどちらの方が私にとって価値があるのか考える。

分譲か賃貸かという選択の上で、切っても切れないのが損得勘定の議論である。結果から言うと、損か得かなどはもちろん選択をする時点では分からない。その後の様々な状況変化によって、結果はいかようにも変わるものである。それでも、分譲マンションの高い長期ローンを組む前に一度、妥当と思われる想定に基づいて試算をしてみることは決して無駄ではない。ここでは、60歳時点における住居に関する支払総額の比較を検討してみる。(今回の比較は都心に近い都内を想定している為、分譲とは分譲マンションということで、一戸建てではありません。)

【モデルケース:支払総額の比較】

設定
[分譲・賃貸共通]
- 30-60歳までの30年で試算
- 分譲と賃貸は同駅、同じ間取りの部屋を想定
- 30歳時の持ち金800万円
- インフレ率0.5%/年
[分譲]
- 購入する分譲マンションは新築の3500万円
- 頭金700万円
- 住宅ローン2800万円(30年ローン、固定金利3%、元利均等返済、ボーナス返済無)→返済総額4250万円(元金2800万円+利息1450万円) [1]
- 購入経費(仲介手数料、登録免許税、不動産取得税、ローン手数料、保証料)は購入価格の約3%、100万円
- 固定資産税+積立修繕費は30万円/年
- 15年に1度、200万円のリフォーム
- 30年後の資産価値は購入価格の37.5% [2]
[賃貸]
- 賃貸マンションの賃料15万円/月(管理費1万円/月を含む)
- 2年に1回の契約更新料は賃料の1カ月分
- 10年に1回の引っ越す(引越し費用は賃料の6カ月分)
- 同じ家賃の物件に引っ越す
- インフレによる賃料の上昇は0.5%/年


初年度支払総額について
[分譲] 頭金(700万)+購入経費(100万)=800万
[賃貸] 引越し費用のみ=90万
分譲はこの時点で、持ち金はゼロ、賃貸は710万円が現金として残る。

以降の一年当たりのランニングコストについて
[分譲] ローン返済(142万)+固定資産税・積立修繕費(30万)+リフォーム(13万)=約185万円
(但し、最初の10年分住宅ローン減税で総額245万円を支払総額から控除)
[賃貸] 賃料(180万)+契約更新料(7.5万)+引越し費用(9万)=約196.5万円
(インフレにより、これらの費用は年0.5%上昇する)

これらを累積していくと、50歳までは賃貸の方が支払総額は少なく済み、50歳時点において分譲の支払総額が4218万円、賃貸の支払総額が4217万円とほぼ同額になり、それ以降は賃貸の支払総額が分譲を上回る。

結果、60歳時点における支払総額は、[分譲] 6174万円、[賃貸] 6440万円となった。

以上の設定に基づくと、60歳時点において賃貸の方が266万円支払総額が少ないので得ということになる。がしかし事はそうも簡単ではない。最初に述べたように、想定条件が変わるとどちらがどれくらい優位かは大きく変わる。不確定な将来、どの要素がどれくらい変わるかはだれも正確に予想することはできない。ただ少なくとも、どの要素が支払総額に及ぼす影響が大きいかを特定することは可能である。

【モデルケース:感度分析】

支払総額に影響を及ぼす要素として、インフレ率、分譲マンションの購入価格、頭金、ローン利率、ローン期間、30年後の資産価値の割合、賃貸の賃料、引越し費用を考える。これらの各要素が10%改善した場合、支払総額は何%改善するのかを試算した結果が以下である。但し、支払総額の改善率を考える上で、一つの要素を10%良い方向に変化させた時、その他の要素は一定とした。

パーセントを具体的にみる前に、その大きさの程度を把握しよう。支払総額は大まかに6000万円ということから10%の改善は支払総額にして600万円程度のインパクトである。例えば、賃料を15万円から13.5万円に抑えることにより、6440万円の支払総額は約620万円減り5817万円になる。また、3500万円の分譲価格が3150万円になれば、6174万円の支払総額は約500万円減り5673万円になる。


賃貸において最も影響の大きい要素は賃料である。支払総額のほぼ全て(家賃、契約更新料、引越し費用)が賃料にリンクしているので、賃料が安くなれば、支払総額はそれとほぼ同等の割合で安くあがる。分譲においては分譲マンションの購入価格が支払総額の大部分を占めるローン総額に大きく寄与する為、最も影響が大きい。つまり、支払総額を安くするには、なるべく安い賃料の賃貸もしくは、なるべく安い価格の分譲物件にするというのが最重要ということである。逆もしかりで、それらが高額になれば、その分大きく支払総額に跳ね返ってくることになる。

以上の結果からいくつか有益な示唆が得られる。まず、頭金に比べてローン期間の改善率の方がはるかに大きいことから、頭金の額を大きくすること自体にあまり意味はなく、ローンの期間を短くすることの方が効果的ということが言える。

また、分譲と賃貸の場合のインフレによる影響を比べると分譲の方がインフレの影響を受けにくいということが分かる。考えてみれば当たり前だが、分譲の場合、ローンが固定金利である以上、向こう30年の支払額が固定されるので、インフレの影響はほとんど受けない。一方賃貸は影響力の大きい賃料が上昇することになるので、分譲と比べてインフレによる影響は大きい。分譲はインフレヘッジになると言えるが、他の要素に比べて影響の度合いが依然低いことから、ハイパーインフレにならない限り、その影響は限定的である。


以上のモデルケースから、大まかに次のことが言える。
1.分譲の場合、支払総額は分譲の購入価格によって大きく変わる
2.賃貸の場合、支払総額は賃料によって大きく変わる
3.それらの条件が変わることで、60歳時点で分譲と賃貸のどちらが損か得も変わる

次週は、私見を交えて今回のモデルで考慮されていない定性的な要素を含めて分譲と賃貸の長所と短所を考える。

参考:
[1] ローン返済額はイーローン住宅ローンシミュレーションに基づく
http://www.eloan.co.jp/simulation/homecalc.jsp
[2] 30年後の資産価値の割合は築年帯別平均成約価格(東日本レインズ2009年)に基づく
http://www.reins.or.jp/pdf/trend/rt/rt_201003.pdf

October 8, 2010

【個人輸入奮闘記】3.ついに、入庫・通関・目的地到着!!


待ちに待った荷物が日本に到着し、大井埠頭の倉庫に保管されているという旨の連絡が、日本側の荷物受入れ海運業者(Bシッピング(仮名))からきた。
Bシッピングに問い合わせたところ、倉庫から荷物を引き取るには、Bシッピングから送られてきたArrival Notice(荷物到着案内書)とB/L原本(船荷証書)[1] なるものが必要と言われた。初めての個人輸入・通関手続きだった為、B/Lと言われても全く何のことやら。。ウェブで調べたり電話で問い合わせたところ、荷物をきちんと船に載せたという証明でありかつその荷物を引き渡すことを約束する書類で、荷物同様、非常に重要な有価証券であることが判明。
B/Lとは何かがわかったものの、さらに大きな問題が発覚。荷物の引き取りにはB/Lは原本でなくてはいけないというのである、その時私の手元にはB/Lの原本が手元になかったのである!!本来であれば、ドイツ側の海運会社が証書を発行し、ドイツの家具屋を経由して、商品の日本到着以前に、私に送られてきていなければならないB/Lの原本が今無いのである。つまり、荷物は日本に届いたものの、通関手続きが出来ない為、倉庫から出すことができないのである。都合の悪いことに、倉庫では荷物の保管が10日間を過ぎると4600円/日もの超過保管料をとられる始末。。色々考えたあげく他に手段がなかったので、その旨ドイツの家具屋に伝え、すぐさま航空便のエクスプレスメールで原本を送るように依頼しました。原本がようやく到着したのは13日後。(B/Lが事前に送られてこなかったのは家具屋の責任だった為、結局かかった超過保管料6万円近くはあっち持ちということにさせました。)
通関に何が必要か全くの無知だった私と荷物受入れの手配に不備のあった家具屋のおかげで、待ちに待ったその日は遅れたものの、必要書類がそろった為いよいよ荷物通関・受け取りの日が来ました。引受人(私)本人でないと手続きがかなり面倒になるということだったので、その日は仕事をお休みして、大型トラックを引き連れ大井埠頭に向かいました。


以下に当日の諸手続きを時系列で説明します。


1. 日本側の海運業者(Bシッピング)でD/O[2] をもらう
必要なもの:Arrival Notice, B/L(原本), CFS支払代金(コンテナから出して倉庫へ移動する手数料)

芝浦にあるBシッピングに行き、上記書類と支払いと引き換えにD/Oをもらう

2. 東京税関大井出張所にて通関手続き
必要なもの:D/O, Invoice(販売元からの請求書), 関税・消費税等々の支払代金

2-1. 荷物は本当に届いていて倉庫にあるのか存在確認
税関職員の方がやってくれます。

2-2. 関税・消費税等の計算
諸々の税率については、Inoviceに基づいて税関の職員の方が計算してくれます。
家具については関税は無税ですが5%の消費税が発生します。(他の製品の税率については東京税関に問い合わせれば、教えてもらえます。)

2-3. 輸入申告書の作成・提出
税率の計算ができたら、それに基づいて輸入申告書を作成します。(税関の職員の方が、丁寧に作成を手伝ってくれます。)

2-4. 輸入申告書の書類審査と荷物検査
税関が輸入申告書を審査し、記載内容に不備等あれば、質問・確認されます。また、必要に応じて荷物のX線検査を求められることもあります。(これに該当してしまうとかなり厄介!)
私の場合、幸いにも特に不備、検査の要求も無くスムーズに審査が終了しました。運が悪く検査を求められたら、それは大変です。というのも大きな荷物ということになると、大型X線検査の設備が東京税関(お台場)にしかないので、そこまで荷物を運んで検査を受けに行かなくてはならず、その検査自体もかなり時間がかかるということでした。

2-5. 納税
関税・消費税等を納めます。もちろん現金しか受け付けないので、それなりの金額の準備が必要です。

2-6. 輸入許可証の受領
納税まで済んだら、納付領収証書と引き換えに輸入申告書に許可と押印された書類(輸入許可証)がもらえます。

3. 倉庫にて荷物の搬出
必要なもの:輸入許可証,D/O,保管料の支払代金

私のケースのように、保管延長した場合は追加保管料を支払います。支払が済むと倉庫から荷物を出してもらえます。(すぐに出てくるわけでなく、順番待ちがあるので1-2時間は待たされます。)大きい荷物の場合、フォークリフトで運び出されてきて積載することになるので、荷物が余裕を持って載せられるトラックで倉庫に向かう必要があります。

荷物を無事積載して、大井埠頭を出たのが午後3時。荷物を最終目的地まで、運搬、到着したころにはすでに日が暮れていました。抜き打ちX線検査は免れたものの、B/LとD/O引き換えから始めたので、本当に一日仕事でした。目的地に無事荷降ろしを終えるやいなや木箱を開封し、きちんと注文したものが入っているか検品しました。色も数も間違いなく、運送中のダメージもなく全てOKでした!一年以上にわたる個人輸入の苦労がまさに報われた瞬間でした!!


その後、家具屋からは商品代金とは別に、運送費が別途請求されてきたのですが、相手側の責による保管超過量を差し引いた分しか送金しないと言い張り、差額を精算することで、全ての取引は終了しました。


手間と時間と労力(+いいかげんな販売元との取引による心労)を考慮せず金額のみ比較すると、商品代金、送料、輸入消費税、超過保管料を含めた、個人輸入した場合の支払合計は約180万円(平均レート130円/ユーロ)でした。 大手輸入家具、○塚家具を通して配達まで依頼した場合の見積もりは、なんと約その倍の350万円でした。私の場合、全く右も左も分からない素人が、家具屋を見つけるところから、購入から輸入までを自力でやった為、時間も手間もかかったのですが、知識・経験の豊富なプロが規模の経済性(コンテナ丸ごと自社輸入品で輸入、自社倉庫を利用等)をてこに輸入を行えば、さらに輸入原価を抑えることができるでしょう。いい商売です。日本の大手輸入家具屋が、それだけの粗利をとっているというのは、それだけ他の営業コストがかかっている事の裏返しでしょう。都心にあれだけの広大な敷地を持ち、販売員が専属で付いて、家具の展示販売をしているのも、商品にのったその粗利と辻褄が合います。

初めての個人輸入における全てのプロセスは非常に良い勉強になりました。どの程度手間がかかるのか、何を事前に確認しておかなくてはいけないのか、輸入販売店を通した場合との価格差などなど。自分で輸入しようと思う何かが今後出てくるかさだかではありませんが、この貴重な経験を記録に残すことで、これから果敢にも個人輸入に挑戦しようと思っている方の一助になればと思います。


ここだけはおさえよう:
・商品が日本に届く前に、通関に必要な書類(B/L原本、Invoice)をすべて手元にそろえておくこと。
・通関は抜き打ちX線検査がなかったとしても丸一日かかることを覚悟すること。
・商品代金が大きい場合は、時間と労力を割いてまで個人輸入することによる価格面でのメリットは大きくなる。(商品によっては関税率が高いものもあるので、事前に調べる必要があります。)



[1] B/L (Bill of Lading) 船荷証券:

運送人が荷送人との間に於ける運送契約に基づいて、貨物を受け取り、船積みしたことを証明する書類で、荷送人の請求によって運送人が発行する。 B/Lは次のような性格を有している。(1)物品の(海上、複合)受取証、運送契約書 (2)貨物の引き渡しに際し必要となる引換証 (3)貿易代金決済の為、荷為替を取り組む場合に必要となる、“荷”を表象する有価証券。このB/Lは通常、輸出者からEMSで届きます。原本でないとDelivery Order(荷渡し指図書)と引き換えできません。












[2] D/O (Delivery Order) 荷渡し指図書:


船会社が貨物の引き渡しを指示する書類。貨物の引き渡しは、本来、B/Lと引き換えに行われるべきものであるが、実務上、船会社は荷受人からのB/L提出と引き換えにD/Oを発行交付し、荷受人はこれを提示して貨物の引き渡しを行う。











【参考:図解 これ1冊でぜんぶわかる! 貿易実務
私も参考にさせて頂いた、ジェトロ認定貿易アドバイザーの方による本格的な貿易実務書です。
専門用語の平易な解説やトラブル事例など大変参考になりました!