October 30, 2010

【賃貸vs分譲 永遠のテーマに終止符を】 包括的メリット&デメリット

先週は、主に数字の面から分譲と賃貸どちらが得かを考察した。今回のケースの場合60歳の時点では、どちらの方が得であると結論付けるに足る有意差を見出すことはできなかった。想定が変わることで、その優劣は簡単に入れ替わる。前もってその損得勘定を精査すること自体あまり意味はないということが言える。決断にあたりより重要な事は、金勘定以外の要素も含め“よく納得する”ことである。よく納得することで、自分がどうして分譲派なのか(もしくは、賃貸派なのか)が明確になり、その後の住居に対する考えに一貫性が出てくる。そうすることでどちらを選んだとしても、最終的にはお得だったという結果が後から必ずついてくるはずである。

それでは、“よく納得する”為に欠くことのできない様々な検討項目について、経済面、利便性、精神面に分けて、それぞれの一長一短を見ていこう。

[経済面]

資産の流動性

  • 分譲は売りたい時に売れるとも限らない為、万が一の支出に対応し難い。(別途十分な生活余剰金の確保が必要)
  • 資産ポートフォリオが不動産に偏り、市況に柔軟に対応できない。不動産が資産のポートフォリオに占める割合が高くなる上、流動性が低い為市況に応じて容易にリバランス(資産の再分配)ができない。
  • 流動性が低いことは言い換えれば、資産価値がリアルタイムに把握できない。他の投資資産と異なり現物資産である不動産の資産価値を正確につかむことは難しく、自分の資産がどのくらいか把握しにくい。
  • 賃貸の場合、資産は不動産に縛られないので、これらのデメリットはない。

結果としての不動産の有無

  • 分譲の場合、ローン完済後には不動産という資産が残る。ただし、残るとしてもそれなりの年数を経た古い物件の為、その資産価値は疑問である。築年数を経た分譲マンションの資産価値については誤解が多い為、いくつかのデータを見てみよう。

東日本レインズの2010年3月の築年帯別中古マンション成約状況を見てみると、築0-5年の中古マンション成約平均価格は4040万円。築31年以上の平均価格は1271万円。ざっくり30年近く経ると価格は約7割減の3割になってしまう。[1]

また、別の切り口から見てみよう。不動産査定マニュアルの作成を行う不動産流通近代化センターの不動産価格査定方法によれば、築年数15年までは-1.5%/年、16-20年では1年古くなるごとに-2%、築年数21年以上では-2.5%/年で、築年数に応じて以上の割合で査定価格を下げていく。築30年の物件であればそれだけで、累積-57.5%となる。つまりプロが査定すると30年経っているというだけで、物件は購入時の約4割の資産価値になってしまう。[2]

あての無い希望的試算に基づくことなく現実をきちんと見据えた上で、買うか借りるかの決断をすべきである。

  • その他、ローン完済後にその物件に住み続ける場合には賃料が発生せず、住居費が格段に抑えられる。分譲の大きなメリットである。
  • しかしながら、一戸建ては土地があるからまだましだが、分譲マンションは基本、土地がないので不動産としての価値は限定的。(東日本レインズのデータからも、土地付き一戸建ての方が分譲マンションに比べて遥かに値崩れ率が小さいことが示されている。30年後の一戸建ての平均成約価格は購入時の約6割である。[1]
初期資金の使い道

  • 分譲の場合は、初期資金の頭金は不動産という形に変わり保有されることになる。不動産が値上がりしない限り、その頭金は時間とともにその価値を減らしていくことになる。
  • 賃貸の場合は、分譲購入の頭金に使わなかった分を投資に回せる。重要なポイントなので、ケースに基づいて詳説する。
では、頭金を払い分譲を購入した場合と、賃貸に決め分譲を買わなかった浮き分を投資に回した場合とどちらが得か、先の例同様に30-60歳の場合について考える。

分譲の場合、最初の持ち金800万円を全て不動産購入に充ててしまう為、そのほかの投資はできない。30年後の60歳時点で残る資産は唯一不動産だけである。上記のケースの場合その資産価値は購入価の37.5%の1312万円である。
一方賃貸の場合、最初の持ち金800万から引越し費用90万円を除いた710万円を投資に回すことが出来る。710万円を30年間複利運用した場合の資産総額は以下のようになる。

710万円を約2.1%で運用できれば30年後の資産はほぼ分譲の30年後の資産価値と一致する。つまり2.1%以上で運用できれば、60歳時点においては賃貸の方が得ということが言える。損得の結果は、もちろん賃貸派の運用成績と分譲派の物件の資産価値との力関係で揺れ動くことになる。

(ここでは、簡略化の為、途中のキャッシュフローは省略し最初の資金のみに注目した。分譲の方が賃貸に比べてランニングコストが低いといった場合、分譲派もその差額を運用できるといった議論もあるが、分譲派の場合、たいてい余剰金は投資に回すよりもローンの繰り上げ返済に充てることになる。(ローンと投資の両天秤はリスクを高めることになる)とどのつまり、ローンの期間を縮めることはできても、分譲派はローン完済までの間は不動産資産オンリーという状況から抜け出せないのである。)

インフレ耐性

  • 分譲物件を固定金利ローンを組んで購入した場合、インフレによる住宅費上昇リスクを回避できる。今回のケースではインフレ率が0.5%/年から1%/年に倍になった場合、賃貸は30年後の総支払額が約500万円増えることになる。
  • 賃貸の場合、インフレによる賃料の上昇で住宅費負担が増えるが、頭金の残り分の資産をきちんと株式や現物資産に分散運用させることによりインフレをヘッジすることは可能である。運用成績次第であるが、30年後の500万円は十分にヘッジできる余地はある。

災害時のリスク耐性

  • 分譲の場合万が一の自然災害などにより住居が破損した場合、家主負担となるリスクがある。
  • さらに集合住宅の場合、災害や老朽化により建て替えが必要となった場合、居住者全員の同意がないと行えない等、修繕したくてもできないといった不自由な点も。
  • 一方賃貸の場合、修繕・改装は基本大家負担が負担するので、自己負担はゼロ。万が一の場合は退出すればよい。



[利便性]

引越しの容易さ

  • 生活スタイルの変化に応じて立地や間取り等適宜変られるので、無駄がない。
  • 万が一の近隣とのトラブルや思いがけない転勤、失業時に簡単に引っ越せる。

物件のグレード

  • 一般的に分譲物件の方が設備・内装などグレードが高く造りが良い。
  • が、最近賃貸物件も良くなってきている。(分譲物件が賃貸に出ることも多い)

家のカスタマイズ性

  • 分譲の場合、好みに合わせて室内を改造できる(一定の改装・修繕費はかかる)
  • しかし、分譲の場合は部屋の中身は変えられても、立地や近隣環境までは変えられない。
  • 賃貸は環境そのものが気に入らなければ、容易に引っ越しができる。また、新しい物件に引っ越すことで定期的に新しい住環境が手にできる。



[精神面]

支払の精神的負担

  • ローン支払いには精神的負担がある。
  • ローン支払いにより、夢や可能性の芽が摘まれる恐れがある。例えば、ローンがある為に独立開業に二の足を踏むとか、ローン完済するまでは早期退職できないなど。
  • 逆に人によっては、ローンがモチベーションとなる場合もある。浪費家の人にとってはローンにより、節約志向が生まれる。ローン返済の為に残業を厭わないなど。

所有欲の満足度

  • 所有欲の強い人の場合、分譲なら一国一城の主の気分を満喫できる。実はこの点が分譲派肯定論の本丸であると思う。持ち家志向の強い人であれば、「自分のもの」というような満足感は持ち家でないと満たせない。ただし、言わずもがな持ち家の満足感とローンによる精神的不安とは表裏一体。
  • 賃貸派は一生借主身分。

老後の安心感

  • 分譲の場合、ローンが完済すれば、それ以降住居の為の支出が格段に安くなる。
  • ただし、築年数が増すにつれ修繕・維持費は結構かかる。
  • よく考えなくてはいけないことが、30年も先の事である老後の終の住処を老朽化した築30年の住居に今のうちから確定させたいかどうかということ。(実際のところ30年間同じ分譲マンションに住み続ける世帯の割合はそう多くはない。)
  • 一方賃貸は、当てのない年金を頼りに、老後も賃料を払い続けなくてはならないという負担と不安。
  • 高齢者だと賃貸契約が結べない場合があることも不安要素。

社会的信用の獲得

  • 分譲派にとって住宅ローン審査を通ったという事実が自信を与える。
  • 持ち家をもって初めて一人前と見なす風潮も昔はあったが、今は古い考え方かもしれない。流れは所有から利用へ、アセットからフローへ。
  • ローンを組む時に、保証人が不動産を所有していると審査が甘くなるといったケースや自分名義の持ち家だとクレジットカードの審査が通りやすいといったケースはあるにはあるが。



[その他]
  • 今なら、住宅ローン減税など、分譲には各種優遇措置がある。(例にもあるように総支払額の3-5%程度の節約効果)
  • 分譲の場合、万が一ローン名義人が死亡した場合、団体信用生命保険が残債を支払ってくれるが、団信加入義務のあるローンの場合、保険料はそもそもローンの金利に上乗せされているという事実は忘れてはならない。その為、ローンを組み団信に加入した場合、保障の重複を避ける為、保険を見直しが必要である。


以上のように、自分にとって分譲と賃貸のどちらがより適しているかは、経済面のみならず利便性や精神的な側面などから包括的に考える必要がある。よくある過ちとして、多面的に判断するのではなく、思いつきにより特定の検討項目ばかりに着目し意思決定をすることが多々見られる。(そもそもそのような人は両者の一長一短を比較することなど最初から念頭になく、すでに答えが決まっている)。その結果、見過ごされたデメリットが後に現実となり後悔を生む結果となることがある。このような悲しい結末を避ける為にも、これらの項目をもれなくかつ、偏りすぎないように巧みなバランスで検討した上で、買うか借りるかを決めるべきである。これは決して他人との比較といった問題ではなく、自分の家庭環境・ライフプランと真摯に向き合い検討することが肝である。

最後に忘れてはならないこととして、ある特定の条件下では分譲が明らかに経済的に有利となる場合がある。比較目的からケースを単純化した為、今回のケースでは考慮されていないが、以下のような場合は分譲の方が得といえるであろう。(それは裏返せば、以下の条件のいずれかに当てはまらなければ、賃貸が勝ることもあるということである。)

[経済面で分譲が勝る条件]

1.ローン完済後もその購入物件に住み続ける場合


ローン完済後は分譲の方が賃貸に比べはるかに月の住居費が安く済む為、住めば済むほどその住居費には差が付く。ただし、築30年超えの物件に住み続けたいかはまた別の話。。

2.ローンを組まず現金で物件を購入できる場合

現金払いできると多くの利点がある。まず利息がなくなる分、総支払額をかなり抑えることができる。第二にローンの支払いがない為、住居費のランニングコストが極端に安くなる。(固定資産税と積立修繕費くらい。)それにより、節約できたお金を投資に回すことができる。(もちろん、分譲物件を現金払いできる程の蓄えがあるといった場合でも賃貸で行くという選択肢はあるが、賃貸が分譲より得になる為にはそれなりのリスクをとった上でそれなりの利回りでその持ち金を運用する必要がある。)加えて、ローンから解放されることにより、上記の精神面における心配がすべて払拭できる点は大きい。

3.ローンを組んですぐに死亡した場合

もちろん考えたくないケースであるが、団体信用生命保険付きのローンを組んで間もなく、不幸にも名義人が死亡した場合はローンがちゃらになる為、上記2.の場合と似た結果となる。但し、名義人(多くの場合稼ぎ頭)がいなくなってしまうことは、以後の収入が減ることに留まらず、家庭にとって何にも代えがたいデメリットであることは間違いないが。。


すでにお気付きと思うが、要はどの点に重きを置くかで買うべきか借りるべきかは変わってくる。
次週は、いよいよ本論。私自身をケースに、分譲か賃貸、どちらが勝るのかを総合的に検討する。


参考

[1] 築年数から見た首都圏の不動産流通市場(東日本不動産流通機構)
http://www.reins.or.jp/pdf/trend/rt/rt_201003.pdf

[2] 中古マンション査定NAVI(不動産流通近代化センターの中古マンションによる築年数と価格査定)
http://www.shirokumasan.net/satei/2007/10/post_7.html