March 3, 2012

人口津波注意報!?


デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21) 藻谷浩介

本書あとがきより:
「経済を動かしているのは、景気の波などではなくて人口の波、
つまり生産年齢人口=現役世代の数の増減だ」。
この本の要旨を一言でいえばそういうことになりましょう。

ここに本書でも引用されている国立社会保障・人口問題研究所による、
これからの日本を考える上で、目をそむける事のできないデータがあります。


(出典:国立社会保障・人口問題研究所 人口統計資料集による日本の将来推計人口)

情けない国会答弁、
本丸に切り込めない税制改革、
一向に改善をみない出産育児環境整備。

ここでは、何らの抜本的対策が打てなかった場合、
日本の生産年齢人口(グラフ中では15-64歳の赤の部分)、
つまり現役世代の頭数は上図の推計が示す通り、
今後減っていくことが予想されます。

それをふまえた上で、
「人口の波のあおりを少しでも軽減する為に個人が出来る事とは何か?」
について、一個人投資家として本書を読むことでいろいろと考させられました。

影響その①:企業
最も消費が盛んな現役世代が減ることにより、内需が縮小。
供給調整が働かないと、ものがダブつき、価格が下落。
→内需にしがみつく内弁慶型企業の先行きは暗い。(日本株投資するなら海外で稼ぐ外需型の企業)

影響その②:不動産
団塊の世代がこぞって持ち家を夢見たかつての住宅市況は今は昔。
ほんの一部の人気エリアを除いて、不動産需要は縮小する一方。
→長期的には日本の住宅市場は収縮。(不動産に資産価値を見出してはいけない)

影響その③:自助努力
税収の減少。抜本的改革なき場合、
近く国の借金は日本の個人金融資産総額を超える。
日本国、円の信用収縮。
→国の社会保障(年金、保険)にもはや頼れない。(自分年金、自分医療積立が必要。また、資産の海外分散がより重要になる)

影響その④:海外投資
人口の波理論が日本だけでなく、世界に当てはまる普遍的なものであるとするならば、
→今後生産年齢人口が増えるであろう国に投資する。(アフリカ、中東、オセアニア、南米への投資を検討する)


(出典:List of countries by population growth rate、黄色になるほど人口増加率は高い)


影響その⑤:自己投資
現役世代の減少により、働き手・消費者ともに減少。
企業の淘汰がより進む。
→モノ・サービスの需給が縮小することで、
金融商品への投資よりも、自分への投資の方が効果的かもしれない。
人的資本への投資効率が、物的資本へのそれを上回るかも。つまり若いうちにたくさん学ぼう。自己投資のリターンは測れないので、実感に乏しいとは思うが。。


想定が悲観的なので、日本人として半ば非国民的な後ろめたさもあります。
ただ、背に腹はかえられません。
それくらい、このグラフが示すこれからの時代というのは
日本にとって受難の道です。

長期で資産運用を考える一個人投資家にとって、
非常に考えさせられる一冊でした。

デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21) 藻谷浩介

February 25, 2012

適職探しは「坂の上の坂」(2)


手助けというほんの軽い気持ちでクラスメイトに投げかけた、
「就活生にお薦めの企業は?」という質問でしたが、
議論はヒートアップ。
いよいよ話は「自分との相性」「こだわり」「価値観」
という問題の本質に入っていきます。



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【登場人物】
・大学講師のAさん
・農業ビジネスを経て現在企業の準備中のBさん
・大手メーカーで経営企画所属のCさん
・私こと管理人
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Date: Mon, 10 Feb 2012 14:10
Subject: Re:情報求む:新卒にお薦めの企業
From: B

管理人さん

ご連絡頂きましてありがとうございます。

Aさんおっしゃるように、確かに回答が難しい!

人の価値観の多様性を考えると
どの会社でもお勧め、と言えてしまいます。

例えば、私の以前勤めていた会社は
中小企業の代表のような会社でした。

社員研修も簡素なもので、
上司たちはお世辞にも仕事ができるとは言えない。
「良くあれで会社が回ってるなぁ、
傍観するのは面白いけど、絶対に社員になりたくない」と
社外の人たちから好奇な目で見られるようなところでした。

恐らくこのような会社は、今回、管理人さんが質問として
求めているようなものではないと思います。

しかし、私にとっては満足のゆく会社で、
自由度が高く、好きなように仕事をすることのできる点でとても良い会社で、
毎日文字通り胸を躍らせながら通ったことを思い出します。

コロンビア大学のシーナ・アイエンガー先生は、
「より良い選択をするために、直観と理性のバランスが重要で、
これらの折り合いをつける戦略は、あなたにとって大事なものは何かを知ること」
と話しています。

まずやるべきは、自分の価値観を理解して、
そして、自分が何をやりたいかを知ることではないかと思います。
それで、各人にとってどの業種、どの職種が良いか定まってくる。
結果的に、名もない中小零細企業であるかもしれないし、
起業であるかもしれません。

要は短期的にも、長期的にも幸福であることが重要ですから。

(中略)

自分への戒めを込めて、学生には、是非、
考え抜いた上で、Stay foolish(小利口になるな)
な選択をして頂きたいと思います。
 
*経営が不安定、
*研修制度等の不備、
*給与水準の低さ、
*次の転職を考えたときのつぶしの効かなさ

いいじゃないですか!
むしろ、こんな会社だからこそ、
やる気さえあれば、すぐに活躍できるのかもしれませんよ。

(中略)

余談ですが、
私の知人の三菱商事の部長は、
三菱商事は官僚的になって以前に比べて面白くなくなった、
と言っていました。

資生堂に勤める友人は、
社内政治にうんざりしています。

東電に勤める友人は、
多額のローンを抱え、
人生分からないもんだ、
と半分達観しています。

以上、Bより


Date: Mon, 12 Feb 2012 12:55
Subject: Re:情報求む:新卒にお薦めの企業
From: 管理人

Bさん、

正直、皆さんに質問をした段階では、
ここまで深く質問に向き合ってくれるとは
思っていなかったので感謝感激雨あられです!

そうなんですよ。
ことのきっかけは、
一人の就活生から「どんな企業がお薦めか?」
というシンプルな質問を頂いただけだったのです。

でも、皆さんが口を揃えるように、
考えれば考えるほど難しさを増す質問です。

日本社会の成熟化、
日本経済の停滞感、
日本文化の自我喪失、
など今の日本が置かれた環境においては、
(かつては大多数に当てはまった)紋切り型のキャリアは
通用しなくなってきています。

各人が「自分で世の中に対峙し、考え、選択する」生き方を
しなければなりません。

そのような“積極的な生き方”を実践する上で常につきまとうのが、
「何を指針に選択・意思決定をするんだ!?」
という大問題です。

それがまさに、
Bさんの引用してくれた、
「より良い選択をするために、直観と理性のバランスが重要で、
これらの折り合いをつける戦略は、あなたにとって大事なものは何かを知ること」であり、
次にくる質問が、

「あなたにとって大事なものは何??」

究極の問いですね。

発展途上のアフリカなどであれば、答えは簡単。
「今の空腹を満たすだけの食べ物」でしょう。
食べ物を手に入れる為に、自らトウモロコシの栽培を始めたり。

ところが、成熟という踊り場に立たされた先進国では
答えを出すのはなかなか難しいです。

発展途上国の人々が明日を生きる為に、飢餓、病気と闘う。
それと同じように、
先進国の人々も生きる上で大切な何かに、悩み、惑う。
(Bさんもおっしゃるように、天下の三菱商事の方も悩む。
盤石安泰を約束されていたはずの東電の方も惑う。)

「自分にとって大事なものは何なんだろう」という問いに、
未来永劫普遍の固有解はないんじゃないかと思うのです。

その難しさから、究極の問いに蓋をかぶせ、日々邁進する。
ただ、決して頭から消えることはないので、時折顔を見せる。
私にとってこの未解決問題とは、
(たとえは悪いですが)不治の病のようであり、
一生付き合っていくしかないなと思ったりしています。

話が大きくなってしまいましたが、
突き詰めて考えると、
そんな究極の質問と
人生において初めて対峙するのが
「就職活動」なのかもしれません。

私自身が、究極の質問に取り組み続けている立場である以上、
同じ質問に初めて出くわした新卒くん/さんに何がしてあげられる
などという考え程、おこがましいことはないのですが、
同じ問いを共有する仲間としてお互い取組み、
後から振り返った時、
笑顔で酒でも酌み交わせればよいのかなぐらいに、
ぼんやり思っています。

管理人


Date: Mon, 12 Feb 2012 13:52
Subject: Re:情報求む:新卒にお薦めの企業
From: C

管理人さん

私もいろいろ悩んでいるところですが、
新卒の場合、会社名 よりも 職種 を
考えたほうがいいと思います。

ここの会社だったら何でもやるので入れて下さい!ではなくて
この職種に配置してくれないんだったら、
採用してくれなくて結構です、
ぐらいの強気のアピールいると思います。

もし、入った会社が合わなくて転職することになっても、
転職のエージェントは前職の職種を見て候補をあげてきます。

社会人年数が多ければ多いほどそうです。 
なので、新卒で入る会社での希望職種というのは
かなり大事なポイントになると思います。

Cより


Date: Mon, 12 Feb 2012 13:52 +0900
Subject: Re:情報求む:新卒にお薦めの企業
From: 管理人

Cさん、

返信ありがとうございます!

たしかに、その後のキャリアに“職種”がファクターとしてもっとも効いてくる
(キャリアの道筋を決めていく)というのは同感です。

ただ、新卒くん/さんにとっては現実的に難しい側面もあるように思います:

1)「総合職採用」は採用の時点で志願者側が職種を指定できない場合が多い(特に日系大手)
  ただ、「それでも自分はこの職種がやりたい」ということを訴えるのも、
  たしかに一つの手ではありますね。

2)新卒くん/さんにとって、本当にやりたい職種が見つからない
  運よく、新卒の(職務経験なしの)状態で希望の職種に配属されたとしても、
  実際に働いてみて、「こりゃ思ってたことと違うぞ」と思うこともしばしばだと思うのです。
  そうなると、2)については、結局、究極の問い「自分にとって本当に大事なものは何?」
  に行き着いてしまいます。

んー、自分でも今の仕事が天職か?と問われると、難しいですねぇ。
この手の事は酒の席の方が話が早いかもしれないですね(^^)
今度会ったときにでも、飲みながら話しましょう!!

管理人


以上。
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ここで登場いただいた方々は、(私を含め)職種、経歴は違えども、
皆ふつーの社会人です。

数社経験している社会人にとってすら
自分にとっての適職探しは容易でないのに、
いわんや他人である就活生の適職探しをや。

ただ、これらの会話からひとつ確実に言えるがあるとすれば
日々仕事をしながらも、みな
「適職探し」ひいては「働くことの意義探し」
を続けているということではないでしょうか。


ここにひとつ、仕事に対する価値観は時代と共に大きく変化していることを示唆する調査があります。

公益財団法人 日本生産性本部による
平成23年度の新入社員2000人余りを対象とした「働くことの意識」調査結果です。

(出典:平成23年度「働くことの意識」調査 公益財団法人 日本生産性本部)


今の新入社員は、自分の能力、個性を生かせるような会社を選んでいます。
売り手(志願者)としては自分のコンピテンシー(行動・能力特性)の理解に努め、
買い手(企業)は新入社員のコンピテンシーを生かせる環境の提供に努める必要がありそうです。
(むろん、これは新卒だけでなく中途にも言えることですね。)

志願者と企業がお互いに満足の行くめぐり合わせとなることを真に願っています。

February 22, 2012

適職探しは「坂の上の坂」(1)

就活生にとっては、エントリー、説明会の真っただ中である。
そんな時期という事もあり、
最近、就活中の知人から助言を求められる機会がありました。

新倫理憲章による短期決戦だとか、
買い手市場の厳しい就職情勢とか、
親との二人三脚活動など、
いろんな情報が飛び交う中、
真に就活生本人の為になる就職活動とは?
と考えをめぐらせたのですが、
考えれば考える程、深みにはまる問題であり、
答えはそう簡単ではありません。

そもそも、自分ひとりの短い社会人経験からの助言とは、
経験不足、意見の偏重もあり甚だおこがましい。
と思い、
MBAで共に学んだ仲間にとりあえず
新卒にお薦めの企業は?と聞いてみることにしました。


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【登場人物】
・大学講師のAさん
・農業ビジネスを経て現在企業の準備中のBさん
・大手メーカーで経営企画所属のCさん
・私こと管理人
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Date: Mon, 6 Feb 2012 22:53
Subject: 情報求む:新卒にお薦めの企業
From: 管理人

Dear 皆さん、

ちょっと皆さんのお知恵を拝借したいのですが、
「今の新卒くん/さんにお薦めする企業」を
思いつく範囲でよいので教えてください。

この企業は新卒で勤めたら面白いんじゃないかっていう会社があったら教えてください。

ご協力お願いします。

管理人より


Date: Mon, 7 Feb 2012 12:47
Subject: Re:情報求む:新卒にお薦めの企業
From: A

管理人さん
Cc皆様

こんにちは。
本邦・非技術系採用に限って返答します。

(中略)

新卒-中小企業の、もともとの相性はあまりよくありません。
中小はどうしても従業員ひとりあたり期待度が高く(育てて辞められるのが怖い)、
学生側も多くが安定経営を第一義に考えます。

中小で働く面白さは、マルチタスクを背負う点であり、
社員間コンピテンシー(行動・能力特性)のばらつきです
(できる人に仕事と権限が集まる)。

さらに、土着性であり、
昨今では”東京パッシング”
(8番らーめんのように東京に出店せず
東南アジアや中国に大量出店する)
の戦略的妙味があります。

中小は相性。
ですので、穴場の中堅中小企業はやはり
応募者が自分で探し当てるしかありませんね。

それにしても、日本経団連の調査をみると、
いかに本邦大企業が依然として
新卒ラヴァーズであるかわかります。

参照:新卒採用(2011年3月卒業者)に関するアンケート調査結果の概要 経団連 2011年9月28日

既卒であってもまだまだ雇用は
実力至上主義でなく風土主義、情緒主義。
それが証拠に トヨタ⇔日産、日立⇔東芝、キリン⇔アサヒなどの
転職は何十年経っても一向に活性化しません。

これらの傾向は当分続きそうです。

(中略)

本音を言いますと、
日頃学生のキャリア相談にのるときは
目の前の相談者の個性を把握してからでないと
特定企業の薦めをしていませんので、
今回の管理人さんによる質問は難易度が高いです。

例えば、
「日本の40歳代前半のおじさんおばさんにお勧めの転職先企業は?」
と同じくらい回答が難しいです。

もし特定の新卒予定者にアドバイスをなさる予定でしたら、
ウェブサーチ”研究”はほどほどにして、
活動初期に体当たり訪問や面談を行って、
皮膚感覚で自分との相性を探り、
自分だけのこだわりを発見させることをおすすめします。

以上です。  Aより


Date: Mon, 7 Feb 2012 22:57
Subject: Re:情報求む:新卒にお薦めの企業
From: 管理人

Aさん、

迅速かつ的確な回答ありがとうございました。

(中略)

現場でまさに、生徒さんの就職相談に乗っている
立場からの意見、非常に参考になりました。

「中小企業は新卒との相性は良くない」とは
もっともだと思います。

Aさんが挙げたように、
中小は、組織だってないので社員の責任範疇が大きい事や
土着的である点に加え、
学生視点からも、

*経営が不安定、
*研修制度等の不備、
*給与水準の低さ、
*次の転職を考えたときのつぶしの効かなさ
(個人的には新卒に対しては、この要素が重要と思っています)

などの理由から、
私も自信を持ってお薦めできるかどうか、
不安が残ります。

ただ、Aさんのメールの最後にもあった通り、
新卒くん/さんに、多少なりとも社会を知る先輩として
どんな協力が出来るのかを考えると:

1.メディアのランキング、大手企業のプッシュ型の採用情報や“就活ぐみ”との間の情報は
地球に数多ある会社、仕事、職種、働き方のほんの一部に過ぎない事に気付かせてあげる


2.ウェブサーチなど2次情報でなく、
職場見学の機会設定や知り合いの紹介等を通じて
できるだけ1次情報に触れられる手助けをしてあげる


ではないかと思っています。

(実際、本当に働いてみないと内情は分からない、
ってのが現実だと思いますが、
他(外)を見る視点を持たないと、
新卒で勤めていざ現実となった“内情”が
自分にとって最適解だったのかということすら
疑問に思わなくなってしまう
「惰性の人生」になってしまうという恐れもありますよね)

管理人


Date: Mon, 9 Feb 2012 6:10
Subject: Re:情報求む:新卒にお薦めの企業
From: A

後進への助言機会があるのでしたら
まさしく一次情報をつかみにいきたくなるような動機付けを
お願いしたいですね。

(中略)

希望を与えると同時に、就業希望者には早期の危機感も有用です。

危機感と言えば、
口頭で脅す、煽るだけの大人を見かけますが
私は反対です。

それでは学生世代は更に萎縮するか、
あるいはせいぜい聞き流すだけで、
すでにラーニングカーブがかかりきっていて
効果は期待薄でしょう。

それよりはうまいこと適所へ誘い出して、
たとえば海外MBAのような怒涛の国際環境現場へ連れていくことで、
自分で衝撃を受けてもらったほうが
効果が持続する
でしょう。

とにかく未就業者を企業規模を問わず
働く現場に誘い出して頂きたい
ですね。

(中略)

どうぞ地球規模の仕事探しも伝授普及させてください!
こちらも大助かりです。

私は就職指導者ではありませんが、
授業演習姿勢を通して企業人から一目惚れされるような
人材は出して行きたいです。

新卒採用シーンは一見魚群のようでいて
個々の学生にはそれぞれの鼓動がありますから
ご縁のある学生には是非とも
いい音色の鼓動を響かせてほしいものです。

A より

議論は、続く…

February 18, 2012

一生ものの時計

「超整理法」の始祖、野口悠紀雄氏
の新著『クラウド「超」仕事法 』(講談社)では、
当時不可能だった数々の便利ツールが
ITの進化によって実現可能となったことを受け、
そのコンセプトをさらに深化させました。

スマートフォン、クラウドを駆使することで
より仕事の効率を上げる数々のTipsが
本書には惜しげもなく紹介されています。

ところで、
直接に本の趣旨とは関係ないですが、
章末のコラムに「一生時計」という
面白いアイデアがあったので、
早速自分で作ってみました。
(男ということで、時計の一周はきりがよい80としました。)

究極の人生の「見える化」です。
可視化することでいろんな雑多な思いが浮かんできます:

んー、人生勉強だなとか。
んー、もう1/3埋まってるなとか。
んー、余白もまだまだあるなとか。
んー、その余白に何を書こうかなとか。

野口悠紀雄氏はこの一生時計を前著に載せようとしたが、
読者への影響を考慮して躊躇したとのこと。

んー実際に眺めてみると、
人生の見える化に対して、
とくべつ何かな有益な作用を期待するわけでもないですが、
おもしろい。

人生の分岐点にさしかかったら
再び見ることになるのかもしれません。

[参考]

クラウド「超」仕事法 野口悠紀雄 講談社

February 12, 2012

本を贈りあえる仲


友人に本をプレゼントするのは難しいものである。
(ここでの友人とは、同じ趣味をきっかけとして知り合った友人等、
興味が局所的に一致する友人関係でなく、ふつーに知り合った友人)

「あの人にぜひこの本を読んで欲しい」という純粋な善意をして本をあげても、
読んでもらえなかったり、感想のキャッチボールが返ってこなかったり、
ということもめっぽう多い。
そんな時は結構がっかりするものである。
本をプレゼントすることは
「本の主旨に自分の太鼓判を押し、それを貰い手に強いる」行為である。
その“思想のプッシュ”が見事貰い手のツボにはまればいいが、
はまらない事の方が多い。
だから私自身、本を人にプレゼントしたことは今までもほとんどと言っていい程ない。
本をプレゼントしたことのある唯一の人と言えば、
そんな思いを込めた私のノーコントロールの投球も寛容に受けとめてくれる、
真に気の知れたキャッチャー(友人)くらいなものである。


そんな気兼ねの無いバッテリーを長年組むオーストラリア在住の友人から
を頂いた。

衝撃的さをあえて演出する奇をてらった予言や、
根拠の乏しい独自の理論など、突っ込みどころももちろんある。
しかし、日本人へのエールがつまった全編を読み終えるころには、
そんなつっこみたかった気持ちはある種の爽快な読後感に変わっていた。


興味を持ったいくつかのポイントについて:

[教育論]
(将来の不可避な少子高齢社会を踏まえて、)子供のことを考えるのであれば、もう日本には未来がないと、海外に移り住んでいく力を今から養っておくのがよい。(中略)どこでも生きられるような教育をすればよい。P103

逞しくも日本を出てオーストラリアで仕事をするその友人の姿が、重なる。

[会社論]
(会社の短命化を踏まえて、)「会社」のコンセプトがほぼ寿命を終えるのは、2024年頃。
P136

会社という「器」に囚われることのない働き方が主流になるのでは、という考えは昨今のノマドと流れを同じにする。12年後いきなり会社が消滅するというわけではなく、カセットが徐々にCDに置き換わったように、働く「器」にも製品ライフサイクルが存在し、その波がそれくらいのタイムスパンでおとづれるという主張。NPO、社会起業家なども次世代の「器」に当るのかも知れない。

[企業論]
定年後も働かなければならない時代、
会社という「器」が持続的でない時代、
再就職先を見つけるのが困難な時代、
40代になったらライフワーク(定年を持たず余生をかけて自ら熱中できる仕事)を始められる力を持つべき。起業もそのひとつ。(p233)


数々の教育プログラム(フォトリーディングやマインドマップ)の日本への啓蒙により
成功を収めたかのように見える著者であるが、
起業の失敗や癌との闘いの経験を通じた、
短視眼的な見方ではなく、
将来を、日本を、達観したアドバイスに満ちた本。

想像の範疇を出ないが、きっと友人は著者と同じそんな思いを、
このプレゼントに託して遠く南半球から届けてくれたのだろう。 
どうもありがとう!

January 21, 2012

【MBAの歩き方】 5.MBA就学中のポイント


MBAを検討している方に少しでも参考になればという思いで始めた「MBAの歩き方」もいよいよ5回目。これまでの過程でMBAへの準備は整いました。今回はいよいよMBA開始です。MBAフェア等で志願者の方々からよく聞かれる質問に答えるようなFAQ形式で、MBAでの学びを最大化させる為に重要ないくつかのポイントについて述べたいと思います。

Q. MBAに進学が決まったのですが、プログラム開始にあたって何を準備しておくべきですか?

A.
選考も無事終了しMBA開始を待つまでの期間は、念願のMBAが決まり早く学びたいという期待から、はやる気持ちもよく分かります。しかし開始前の期間は、そんな気持ちとは裏腹にやっておかなければならないことは実際にはそれほど多くありません。大半のMBAプログラムでは授業開始の1-2週間前、オリエンテーションの期間を設け、新たにクラスメイトとなる人達と仲を深める為のチーム・ビルディングや授業形式に慣れてもらう為のケーススタディー模擬演習など、スムーズに授業が開始できるように、生徒に様々なアクティビティーを提供してくれます。MBAプログラム側のサポート体制は非常に充実しているので特段の準備は必要ありませんが、自らの経験からも、いくつか事前に準備しておくと良い点があります。

・身辺整理

いったん授業が開始すると、怒涛のように授業・課題漬けの日々が待っています!特に日本を離れる方は現地での勉学に集中できるように、身の回りの整理をしておくと良いでしょう。

具体的には:
-       留学中の学費や生活費を送金する為の銀行口座を準備する(留学先でその国の銀行口座を開くことになるので、その銀行とどの日本の銀行が送金手数料・日数において有利かどうか等といった検討)
-       留学中の保険を検討・加入する(入学の際にと同時に学校の保険に加入が義務付けられている場合もあります)
-       住民税・国民年金・国民健康保険などを考慮して必要なら海外転出届を出す
-       運転の必要がある人は国際免許証を取得する
-       ノートパソコンの整理・整備をする(古いようであれあば買換えを検討、ハードディスクの整理等。授業中から夜の課題まで、留学中昼夜を問わず必需品のパソコンが壊れるのは致命的です。)
-       連絡手段をまとめ、関係者に報告する(連絡先の変更と引越しの案内、Skypeの設定)
-       MBA後に転職活動予定の方は、日本を離れてしまう前に、MBAホルダー関連のコミュニティー、もしくは転職エージェントにアプローチしておく(MBA特化ということで例をあげると、MBAホルダーの方が代表を務めるαALPHALEADERSといったコミュニティーや、MBAホルダーと企業を繋ぐAXIOMといった転職エージェントもあります。) 注)私自らお付き合いのあった団体の一例として挙げさせてもらっただけであり、当該団体との利害関係は一切ありません。

・日本語の参考書を厳選し、持ち込む

勉強に必要な教材についても、基本は消化しきれない程の分量が学校側から提供されるので自らたくさんのテキストを持ち込む必要はありません。海外であれば、使われる教材はもちろん全て英語です。それだけでもお腹いっぱいなのですが、日本語で理解を深める為にも、いくつか日本から参考書を持ち込めばよかったと、実際に授業が始まって初めて思うような時もありました。(たとえ同じ内容でも日本語で読むことは、英語漬けで頭がパンクしそうになった時の一服の清涼剤にもなります。)人によっては何十冊も日本語書籍を持ち込む方もいましたが、私が持っていったものの中でとりわけお薦めの一冊をご紹介します。

ファイナンスの基本を理論面だけでなく「実務面から具体例を交え丁寧かつ平易に解説した」まさに財務部の現場の視点から書かれた良著。英語の教科書的文体に疲れた時に、副読書として読みました。今でも時折見返しています。


Q. 英語での授業についていけるかどうか心配です。英語で学ぶにあたり気をつけた点、心がけた点は?

A. 英語でのコミュニケーション力を高めることもMBA留学の大きな目的の一つのはず。その達成の為にも、ここはある程度ストイックに英語漬けの為のルールをきちんと決めること。

帰国子女など、英語がネイティブレベルの人であれば問題ないのですが、それ以外のほとんどの日本人は、MBA中いろいろな場面で言葉の壁を感じることと思います。そんな環境に身を置くと、半ば必然的に言葉も気心も知れた日本人同士とつるんでしまうものです。自然に任せると楽な方に心が傾くのが人間の性、ここはストイックに自分にルールを課すとよいでしょう。

私の日本人クラスメイトの一例です。「英語が自分の弱点だ。」「海外MBAを選んだのはそれを克服する為である。」と公言していた彼は、日本人クラスメイトである私達に、“キャンパス内日本語禁止宣言”をしました。(もちろん私達もお互いの為になるということで喜んでそのルールに賛同しました。)たとえ、たまたま日本人同士でグループワークということになっても、そこはルールを守りストイックに英語で議論。カフェテリアのランチの場面でも、キャンパス内であれば日本人同士であれ、英語で会話。(たまーに、息抜きに週末オフキャンパスで酒を酌み交わすときには、普段の不足を補うかの如く日本語で世間話におおいに花を咲かせたりもしましたが。。。)日本人である限り、英語漬けの環境に身を置ける機会というのはそう滅多にあるわけではありません。海外MBAはそんな貴重な“英語オンリーの世界”にどっぷりと浸れるまたとない機会。海外でMBAを卒業したにもかかわらず、意見を英語で海外の人にうまく伝えられない等といった事態にならないよう、安易に母国語に逃げたり、引きこもってしまわないように、ここはひとつ自分に厳しく、ルールを課すとよいでしょう。


Q. 相当な量の課題がでると聞くが、無事単位とって卒業するために、それらをどうこなしていったのか?

A. どの課題が自分にとって重要なのか優先順位をつけ、重要なものに注力し、重要でないものはAを目指さずpassできればよいくらいの気持ちで流すべし。

苦労、負荷を分散・軽減させる細かい小手先の技はいろいろ存在します。例えば、科目の性質上時間・労力のかかるファイナンスとアカウンティングはなるべく一緒の学期にとらないようにカリキュラムを組むとか。さらに慣れてくると、同じ科目でもどの時期に開講されるクラスを取れば仏様教授が担当になる、のようなインサイダー情報に基づいて授業を組む等といった小手先の技もあるのですが、MBAともなるとやはりそれでは対応できない程のボリュームの課題がのしかかってきます。

私の担当教授からMBA開始前に頂いた言葉で、今でも忘れない言葉があります。
MBA is like a drinking water from a fire hose

MBAで学ぶということは消火栓から水を飲むようなものだ。吹きつけるように大量に浴びせられる水(知識・情報・課題)に、むせることなく水を飲め(それらを吸収し学べ)という意味です。聞いた当初はその本当の意味はよく分からなかったのですが、プログラムにも徐々に慣れ、中盤ともなってくるころにはようやくそれが何を意味するのか、分かった気がしました。避けようのない大量の水が襲いかかってきた場合、それをまっこうに受けようと口を全開にしたのでは水が飲めるどころか、アホ顔になってしまうだけなのがおちです。そうならずに、うまく水を飲む為には、本当に欲しい水の一部に狙いを定め、口をすぼめるべきだということに気づきました。

私の場合、エコノミクス(経済学)とマーケティングの授業を同学期に履修していました。卒業後のキャリアとしてマーケティング方面に進みたかったのは明確だったので、ここは涙を呑んで経済学のテキストリーディングにはほとんど時間を割かず、その分マーケティングのケースの準備に時間を割きました。経済学がまったく重要でないということではなかったので苦渋の選択だったのですが、ここは取捨選択と割り切り、案の定経済学の成績はぎりぎりのパスでした。

あまりの課題の量でにっちもさっちもいかなくなったときは、一度教科書を閉じて、再びMBA出願の時に精魂込めて書いたエッセイを読み返してみて下さい。きっとそこにはMBAを決意した理由が書いてあり、それを再読することで、今きちんと勉強すべき教科とそうでない教科がおのずと見えてくるはずです。心配は無用です。低優先順位の授業でも出席さえしていれば、流す程度の課題の処理でもまず単位を落とすことはありません。(事実、MBAで留年する学生は、特殊な理由を除き極めて稀です。)

大量の情報にどのように立ち向かうか。これはMBAに限ったことではありません。例えば、企業の経営層が日々意思決定を下す上で、数多の情報を処理する必要があるという状況と全く同じといえます。MBAには生徒にあえてそのような試練の場を与えることで、その後の実社会におけるサバイバル能力を鍛える、といった狙いがあるのかもしれません。


Q. 学びを最大化する為の、授業を受ける際の重要な心構えは?

A. MBAの授業は教師と生徒の両者で作り上げるもの。自ら積極的に参加し、自分の存在をクラスにアピールすればする程、得られる学びは大きくなります。ここは強調しても、し足りないくらい重要な点です。

MBAは単なる未成年の学生が集まった学びの場ではありません。年齢も国籍も、そして社会人経験(年数・業界・専門領域)も全く異なる学生が、教授のファシリテーションの元、意見を交換し、ともに議論しあうのがMBAでの授業です。授業を聞いてノートを取るだけでは、巷で売っているMBAシリーズ本による自学自習と何ら変わりはありません。もちろん授業で自ら手を挙げ、教授に意見するのは勇気が必要です。モチベーションの高いクラスメイトに埋没せずに自ら意見を述べるのは簡単ではないですが、それこそが自学自習でもオンライン学習でも得られない、教室で受けるMBA授業の醍醐味なのです。そんな私も、授業始まって間もない頃は、授業を中断させてでも教授に意見するインド人学生たちに唖然とし、手を挙げたくても遠慮しがちでした。しかし、次第に慣れもあってか、彼らと比べてまだまだ拙い英語ながらも、はっきり喋ればきちんと聞いてくれると分かってからは、些細な質問といったことでも授業で発言できるようになりました。
授業での積極参加(コントリビューション)がなぜ重要かには一つの理由があります。海外MBAは多国籍学習集団であり、授業の中で、グループワークの中で、否が応にもそれぞれの学生がそれぞれの国を背負っているんだと感じざるを得ない場面が多々あります。学生がナショナリストの集まりと化すというわけではないのですが、少なくとも日本人学生としてクラスに参加していることから、“日本人として”の意見をクラスから期待されることが多いという事です。例えば、オペレーションの授業では必ずトヨタ生産方式(Toyota Production System)の事例が紹介されます。授業に参加している一日本人生徒として、それがどのような内容なのかといった説明はさておき(教授の仕事を奪ってしまってはいけないので、)、どういう日本的経営思想から生まれたコンセプトなのかについての補足的説明など、当事者の立場的視点をクラスメイトの外国人と共有することは大変意義深いことです。

とにかく、いろんな国籍の人が集まりクラスを形成するのがMBA。コントリビューションは、MBAを自他ともに有意義なものにする為に、一番といっても過言でないほど重要です。言葉の壁同様、易きに流れる自分を制する為にも、私の場合は「1授業1発言」を肝に銘じて毎回授業に臨みました。


最後に、MBA志願者からの質問というわけではないのですが、MBAを乗り切るコツとして、一点「MBA中にダレてしまったら、どのように克服すればよいか?」について。

終わるとあっという間というものの、長い場合2年にもなるMBAプログラムともなると、慣れと共に、最初のモチベーションが次第に下がってきて、ダレる時期が必ず訪れるものです。私にもそんな時期がありました。授業と課題、学校とステイ先、繰り返しのサイクルに慣れてきたのはよいもののそれと共に、MBAを志した頃のモチベーションがどこかに吹き飛んだかのように、ときには空虚な気分になったり、勉強が手につかなかったり、まだまだ先のはずの卒業後の転職のことばかり気にかかったりと様々な形でその症状は現れます。そんな時、再びモチベーションを取り戻すのに有効だった策が2つあります。

1つは、「現場を見る」ことです。

学生として一定期間、職場を離れ学業に専念すると、人間は単純なもので、働いていた時の自分のリズムや現場の実感といったものはいとも簡単に遠のいてしまうものです。MBAフルタイム学生の場合、「社会人だった頃はよくもまあ毎日満員電車に揺られて会社に通ったもんだよな~」とか思ってしまうもの。いずれは戻ることになる実社会との乖離を埋める為にも、現場を見ることは非常に効果があります。幸い私のプログラムの授業では、「現場を授業に持ち込む」というコンセプトの元、現役の会社役員の方々がゲストレクチャーとして講義をしに来て下さったり、逆に教室を出て事業会社の現場を訪問する機会を与えてくれたりしました。そのおかげで、薄れかけた社会人としての現場感覚が戻るとともに、実際に授業で学んでいる事が机上の理論に終わらず、会社・事業と実際にどのようにリンクしているのか、当人との質疑応答やビジネスの現場訪問を通じて実感できたことで、再び学びの意欲も湧いてきたのでした。もちろん授業の一環に限らず、インターンシップというのも有効ですし、プログラムとして現場を見る機会が用意されていない場合であっても、そこは大人たれども学生特権をおおいに利用しての企業訪問でも良いでしょう。卒業後に転職を考えている人であれば、興味のある業界に的を絞れば、モチベーションの回復と転職への動機づけと一粒で二度おいしい結果となるのは間違いありません。

2つ目は、全員にとって有効かどうかわかりませんが、「日本に一時帰国してみる」ことです。

これにはいくつかの効果があります。卒後日本に帰るというプランの人にとって重要な効果なのですが、出発地点に戻ることで今一度、初心を振り返ることができるということに加えて一時帰国することで、いずれ戻ることになる日本に「どのような自分になって戻ってくるべきか」について再考、再認識させられるからです。日本帰国を考えていない人にとっても非常に意味のあるもう一つの効果は、一時帰国により、頑張って仕事を続けている日本の知人や友人と実際に会い、話し、飲むことで、「自分も頑張らないと!」と実感できるという点が挙げられます。(効率やスピードはさておき、)国際的にみても日本人は努力家です。MBAの授業は大変といっても、あくまで好きで自分で選んだ道、真の意味での責任もなければ、義務もありません。反対に、仕事は責任もあれば義務もあります。多くの場合、好き嫌いで上司、顧客は選べません。一時帰国によりそんな環境で頑張っている仲間を間近に見ることで、努力家のエンジンに再び火が入るということを、自ら経験しました。

みな高い志で始めるMBA。しかし、ダレの時期はだれにでも訪れます。その主な原因は、社会人モードを失ってしまい、学生気分に慣れ親しんでしまうことにあるのです。そんな時は「現場を見る」か「日本に帰る」ことで気分を切り替え、志をもう一度高くかかげましょう。

MBA終わってみるとあっという間ですが、実際のMBA就学中は教科書に押しつぶされながら、社会から距離を置いて自分に没頭できる、人生でもまたとない貴重な時間なので、そんな時間が充実したものになるよう一助となれば幸いです。


次回は、転職を見すえたポストMBAについて纏めていきます。

January 15, 2012

若手コンサルタントへの厳しくもアツいメッセージ



やはり、“ターゲットとする読者層が明確な本は、頭に、心に、突き刺さる”ものである。

もちろん、様々な読者層にとっても得るものが多い程、内容の濃い本ではあるが、本書を読むことにより最も多くの気づき、学びが期待できるのは、戦略・経営コンサルタント、とりわけ若手のコンサルタントである。(そんな期待から本書を手にしたわけだが、読後、その期待は裏切られることはありませんでした。)

本書で取り上げられるトピックは、トップコンサルタントが抱える(つまりは、クライアントとしての企業経営者にとっての)様々な課題、チャレンジに及びます。プロのコンサルタントとしての仕事への姿勢から今後の日本企業が海外と伍して戦う術まで、対談の内容は多岐に渡ります。その中でも特に、頭に、心に突き刺さったポイントを以下に挙げます。


-       組織の実行力が戦略の自由度を決める (p28-32)
論理的な正解を提示するとクライアントにとって実行が難しく、実行可能な範囲で考えてしまうと結果として不正解となる。JALのケースも戦略合理性と組織風土の狭間の難解なケースだった。

-       実行力強化には、リーダーの育成こそが今の日本企業にとって最も効果の大きい施策 (p40,242)
グローバルに通用するリーダーをどれだけ厚みを持って会社として抱えられるか、もっと言うと有能な人材を輩出するような企業を目指すべき

-       年功序列を実質的にきちんと解体すれば8-9割の問題は解決する (p243)
有能な人をきちんと配置すれば、年功制は次第に崩れていき、優秀な若手のモチベーションは上がり、成長速度も速くなり、企業全体の実行能力は持続的に強化される

-       経営者にとって重要な事は、自分が下した意思決定を社員に正しいと思わせ、成功に向けて突き進むこと。そのような経営者のリアリティーを理解してこそ真のコンサルタント (p57-59)
全ての選択肢の中からどの案が最も正しいかに固執してしまいがちなのがコンサルタント。しかし、現実に経営に携わる社長からすると、どの案であれ実際にやってみないと分からないという場合が多い。そんな社長のリアリティーを無視した提言をしたところで、クライアントに心の扉は開いてもらえない。

-       3000万円稼げる人が1000万円で満足すれば国は滅びる (p68-72)
国としても、企業としても、有能なエリートは使い尽すべき。もちろん、それ相応の報酬を与えた上で。3000万円稼がせ、2000万円与え、1000万円納税させるべし。

-       世界と日本とではビジネスの時間軸が異なる (p188-191)
海外と異なり、日本の商習慣は繰り返し(リピート)、継続を前提としており、時間軸は長い。外資系にありがちであるが、それを無視したグローバル・スタンダードの日本への押しつけは決して成功しない。ボーダフォンが日本市場を攻略できなかった理由もここにある。

-       真のグローバル化とは日本の土台をしっかり持つこと (p195-198)
単に無国籍なものが幅を利かせたり、海外の受け売りといった事ではなく、真のグローバル化とは自国の土台(ファウンデーション)をきちんと持つことが前提である。そうすれば、必然的に他国からも必要とされる企業、人材(真のグローバル戦力)となり得る。


コンサルタントという職能を極めた二人の言葉は深く、重い。自ら経験を伴い、それが腑に落ちるには、私自身まだまだ経験的にも時間を要するでしょう。しかし、二人が実際にコンサルティングを行った企業変革のケースを数多く引用した上での主張は力強く、一流の視点を垣間見ることができただけでも一読の価値がありました。

さすが、日本を代表する二人のトップコンサルタントだけに、ここまで赤裸々な、ガチの対談も珍しく、その濃密な内容を示唆の富んだ対談本としてまとめ挙げた本書は、繰り返しますが、若手コンサルタント必読の書であることは間違いありません。