January 21, 2012

【MBAの歩き方】 5.MBA就学中のポイント


MBAを検討している方に少しでも参考になればという思いで始めた「MBAの歩き方」もいよいよ5回目。これまでの過程でMBAへの準備は整いました。今回はいよいよMBA開始です。MBAフェア等で志願者の方々からよく聞かれる質問に答えるようなFAQ形式で、MBAでの学びを最大化させる為に重要ないくつかのポイントについて述べたいと思います。

Q. MBAに進学が決まったのですが、プログラム開始にあたって何を準備しておくべきですか?

A.
選考も無事終了しMBA開始を待つまでの期間は、念願のMBAが決まり早く学びたいという期待から、はやる気持ちもよく分かります。しかし開始前の期間は、そんな気持ちとは裏腹にやっておかなければならないことは実際にはそれほど多くありません。大半のMBAプログラムでは授業開始の1-2週間前、オリエンテーションの期間を設け、新たにクラスメイトとなる人達と仲を深める為のチーム・ビルディングや授業形式に慣れてもらう為のケーススタディー模擬演習など、スムーズに授業が開始できるように、生徒に様々なアクティビティーを提供してくれます。MBAプログラム側のサポート体制は非常に充実しているので特段の準備は必要ありませんが、自らの経験からも、いくつか事前に準備しておくと良い点があります。

・身辺整理

いったん授業が開始すると、怒涛のように授業・課題漬けの日々が待っています!特に日本を離れる方は現地での勉学に集中できるように、身の回りの整理をしておくと良いでしょう。

具体的には:
-       留学中の学費や生活費を送金する為の銀行口座を準備する(留学先でその国の銀行口座を開くことになるので、その銀行とどの日本の銀行が送金手数料・日数において有利かどうか等といった検討)
-       留学中の保険を検討・加入する(入学の際にと同時に学校の保険に加入が義務付けられている場合もあります)
-       住民税・国民年金・国民健康保険などを考慮して必要なら海外転出届を出す
-       運転の必要がある人は国際免許証を取得する
-       ノートパソコンの整理・整備をする(古いようであれあば買換えを検討、ハードディスクの整理等。授業中から夜の課題まで、留学中昼夜を問わず必需品のパソコンが壊れるのは致命的です。)
-       連絡手段をまとめ、関係者に報告する(連絡先の変更と引越しの案内、Skypeの設定)
-       MBA後に転職活動予定の方は、日本を離れてしまう前に、MBAホルダー関連のコミュニティー、もしくは転職エージェントにアプローチしておく(MBA特化ということで例をあげると、MBAホルダーの方が代表を務めるαALPHALEADERSといったコミュニティーや、MBAホルダーと企業を繋ぐAXIOMといった転職エージェントもあります。) 注)私自らお付き合いのあった団体の一例として挙げさせてもらっただけであり、当該団体との利害関係は一切ありません。

・日本語の参考書を厳選し、持ち込む

勉強に必要な教材についても、基本は消化しきれない程の分量が学校側から提供されるので自らたくさんのテキストを持ち込む必要はありません。海外であれば、使われる教材はもちろん全て英語です。それだけでもお腹いっぱいなのですが、日本語で理解を深める為にも、いくつか日本から参考書を持ち込めばよかったと、実際に授業が始まって初めて思うような時もありました。(たとえ同じ内容でも日本語で読むことは、英語漬けで頭がパンクしそうになった時の一服の清涼剤にもなります。)人によっては何十冊も日本語書籍を持ち込む方もいましたが、私が持っていったものの中でとりわけお薦めの一冊をご紹介します。

ファイナンスの基本を理論面だけでなく「実務面から具体例を交え丁寧かつ平易に解説した」まさに財務部の現場の視点から書かれた良著。英語の教科書的文体に疲れた時に、副読書として読みました。今でも時折見返しています。


Q. 英語での授業についていけるかどうか心配です。英語で学ぶにあたり気をつけた点、心がけた点は?

A. 英語でのコミュニケーション力を高めることもMBA留学の大きな目的の一つのはず。その達成の為にも、ここはある程度ストイックに英語漬けの為のルールをきちんと決めること。

帰国子女など、英語がネイティブレベルの人であれば問題ないのですが、それ以外のほとんどの日本人は、MBA中いろいろな場面で言葉の壁を感じることと思います。そんな環境に身を置くと、半ば必然的に言葉も気心も知れた日本人同士とつるんでしまうものです。自然に任せると楽な方に心が傾くのが人間の性、ここはストイックに自分にルールを課すとよいでしょう。

私の日本人クラスメイトの一例です。「英語が自分の弱点だ。」「海外MBAを選んだのはそれを克服する為である。」と公言していた彼は、日本人クラスメイトである私達に、“キャンパス内日本語禁止宣言”をしました。(もちろん私達もお互いの為になるということで喜んでそのルールに賛同しました。)たとえ、たまたま日本人同士でグループワークということになっても、そこはルールを守りストイックに英語で議論。カフェテリアのランチの場面でも、キャンパス内であれば日本人同士であれ、英語で会話。(たまーに、息抜きに週末オフキャンパスで酒を酌み交わすときには、普段の不足を補うかの如く日本語で世間話におおいに花を咲かせたりもしましたが。。。)日本人である限り、英語漬けの環境に身を置ける機会というのはそう滅多にあるわけではありません。海外MBAはそんな貴重な“英語オンリーの世界”にどっぷりと浸れるまたとない機会。海外でMBAを卒業したにもかかわらず、意見を英語で海外の人にうまく伝えられない等といった事態にならないよう、安易に母国語に逃げたり、引きこもってしまわないように、ここはひとつ自分に厳しく、ルールを課すとよいでしょう。


Q. 相当な量の課題がでると聞くが、無事単位とって卒業するために、それらをどうこなしていったのか?

A. どの課題が自分にとって重要なのか優先順位をつけ、重要なものに注力し、重要でないものはAを目指さずpassできればよいくらいの気持ちで流すべし。

苦労、負荷を分散・軽減させる細かい小手先の技はいろいろ存在します。例えば、科目の性質上時間・労力のかかるファイナンスとアカウンティングはなるべく一緒の学期にとらないようにカリキュラムを組むとか。さらに慣れてくると、同じ科目でもどの時期に開講されるクラスを取れば仏様教授が担当になる、のようなインサイダー情報に基づいて授業を組む等といった小手先の技もあるのですが、MBAともなるとやはりそれでは対応できない程のボリュームの課題がのしかかってきます。

私の担当教授からMBA開始前に頂いた言葉で、今でも忘れない言葉があります。
MBA is like a drinking water from a fire hose

MBAで学ぶということは消火栓から水を飲むようなものだ。吹きつけるように大量に浴びせられる水(知識・情報・課題)に、むせることなく水を飲め(それらを吸収し学べ)という意味です。聞いた当初はその本当の意味はよく分からなかったのですが、プログラムにも徐々に慣れ、中盤ともなってくるころにはようやくそれが何を意味するのか、分かった気がしました。避けようのない大量の水が襲いかかってきた場合、それをまっこうに受けようと口を全開にしたのでは水が飲めるどころか、アホ顔になってしまうだけなのがおちです。そうならずに、うまく水を飲む為には、本当に欲しい水の一部に狙いを定め、口をすぼめるべきだということに気づきました。

私の場合、エコノミクス(経済学)とマーケティングの授業を同学期に履修していました。卒業後のキャリアとしてマーケティング方面に進みたかったのは明確だったので、ここは涙を呑んで経済学のテキストリーディングにはほとんど時間を割かず、その分マーケティングのケースの準備に時間を割きました。経済学がまったく重要でないということではなかったので苦渋の選択だったのですが、ここは取捨選択と割り切り、案の定経済学の成績はぎりぎりのパスでした。

あまりの課題の量でにっちもさっちもいかなくなったときは、一度教科書を閉じて、再びMBA出願の時に精魂込めて書いたエッセイを読み返してみて下さい。きっとそこにはMBAを決意した理由が書いてあり、それを再読することで、今きちんと勉強すべき教科とそうでない教科がおのずと見えてくるはずです。心配は無用です。低優先順位の授業でも出席さえしていれば、流す程度の課題の処理でもまず単位を落とすことはありません。(事実、MBAで留年する学生は、特殊な理由を除き極めて稀です。)

大量の情報にどのように立ち向かうか。これはMBAに限ったことではありません。例えば、企業の経営層が日々意思決定を下す上で、数多の情報を処理する必要があるという状況と全く同じといえます。MBAには生徒にあえてそのような試練の場を与えることで、その後の実社会におけるサバイバル能力を鍛える、といった狙いがあるのかもしれません。


Q. 学びを最大化する為の、授業を受ける際の重要な心構えは?

A. MBAの授業は教師と生徒の両者で作り上げるもの。自ら積極的に参加し、自分の存在をクラスにアピールすればする程、得られる学びは大きくなります。ここは強調しても、し足りないくらい重要な点です。

MBAは単なる未成年の学生が集まった学びの場ではありません。年齢も国籍も、そして社会人経験(年数・業界・専門領域)も全く異なる学生が、教授のファシリテーションの元、意見を交換し、ともに議論しあうのがMBAでの授業です。授業を聞いてノートを取るだけでは、巷で売っているMBAシリーズ本による自学自習と何ら変わりはありません。もちろん授業で自ら手を挙げ、教授に意見するのは勇気が必要です。モチベーションの高いクラスメイトに埋没せずに自ら意見を述べるのは簡単ではないですが、それこそが自学自習でもオンライン学習でも得られない、教室で受けるMBA授業の醍醐味なのです。そんな私も、授業始まって間もない頃は、授業を中断させてでも教授に意見するインド人学生たちに唖然とし、手を挙げたくても遠慮しがちでした。しかし、次第に慣れもあってか、彼らと比べてまだまだ拙い英語ながらも、はっきり喋ればきちんと聞いてくれると分かってからは、些細な質問といったことでも授業で発言できるようになりました。
授業での積極参加(コントリビューション)がなぜ重要かには一つの理由があります。海外MBAは多国籍学習集団であり、授業の中で、グループワークの中で、否が応にもそれぞれの学生がそれぞれの国を背負っているんだと感じざるを得ない場面が多々あります。学生がナショナリストの集まりと化すというわけではないのですが、少なくとも日本人学生としてクラスに参加していることから、“日本人として”の意見をクラスから期待されることが多いという事です。例えば、オペレーションの授業では必ずトヨタ生産方式(Toyota Production System)の事例が紹介されます。授業に参加している一日本人生徒として、それがどのような内容なのかといった説明はさておき(教授の仕事を奪ってしまってはいけないので、)、どういう日本的経営思想から生まれたコンセプトなのかについての補足的説明など、当事者の立場的視点をクラスメイトの外国人と共有することは大変意義深いことです。

とにかく、いろんな国籍の人が集まりクラスを形成するのがMBA。コントリビューションは、MBAを自他ともに有意義なものにする為に、一番といっても過言でないほど重要です。言葉の壁同様、易きに流れる自分を制する為にも、私の場合は「1授業1発言」を肝に銘じて毎回授業に臨みました。


最後に、MBA志願者からの質問というわけではないのですが、MBAを乗り切るコツとして、一点「MBA中にダレてしまったら、どのように克服すればよいか?」について。

終わるとあっという間というものの、長い場合2年にもなるMBAプログラムともなると、慣れと共に、最初のモチベーションが次第に下がってきて、ダレる時期が必ず訪れるものです。私にもそんな時期がありました。授業と課題、学校とステイ先、繰り返しのサイクルに慣れてきたのはよいもののそれと共に、MBAを志した頃のモチベーションがどこかに吹き飛んだかのように、ときには空虚な気分になったり、勉強が手につかなかったり、まだまだ先のはずの卒業後の転職のことばかり気にかかったりと様々な形でその症状は現れます。そんな時、再びモチベーションを取り戻すのに有効だった策が2つあります。

1つは、「現場を見る」ことです。

学生として一定期間、職場を離れ学業に専念すると、人間は単純なもので、働いていた時の自分のリズムや現場の実感といったものはいとも簡単に遠のいてしまうものです。MBAフルタイム学生の場合、「社会人だった頃はよくもまあ毎日満員電車に揺られて会社に通ったもんだよな~」とか思ってしまうもの。いずれは戻ることになる実社会との乖離を埋める為にも、現場を見ることは非常に効果があります。幸い私のプログラムの授業では、「現場を授業に持ち込む」というコンセプトの元、現役の会社役員の方々がゲストレクチャーとして講義をしに来て下さったり、逆に教室を出て事業会社の現場を訪問する機会を与えてくれたりしました。そのおかげで、薄れかけた社会人としての現場感覚が戻るとともに、実際に授業で学んでいる事が机上の理論に終わらず、会社・事業と実際にどのようにリンクしているのか、当人との質疑応答やビジネスの現場訪問を通じて実感できたことで、再び学びの意欲も湧いてきたのでした。もちろん授業の一環に限らず、インターンシップというのも有効ですし、プログラムとして現場を見る機会が用意されていない場合であっても、そこは大人たれども学生特権をおおいに利用しての企業訪問でも良いでしょう。卒業後に転職を考えている人であれば、興味のある業界に的を絞れば、モチベーションの回復と転職への動機づけと一粒で二度おいしい結果となるのは間違いありません。

2つ目は、全員にとって有効かどうかわかりませんが、「日本に一時帰国してみる」ことです。

これにはいくつかの効果があります。卒後日本に帰るというプランの人にとって重要な効果なのですが、出発地点に戻ることで今一度、初心を振り返ることができるということに加えて一時帰国することで、いずれ戻ることになる日本に「どのような自分になって戻ってくるべきか」について再考、再認識させられるからです。日本帰国を考えていない人にとっても非常に意味のあるもう一つの効果は、一時帰国により、頑張って仕事を続けている日本の知人や友人と実際に会い、話し、飲むことで、「自分も頑張らないと!」と実感できるという点が挙げられます。(効率やスピードはさておき、)国際的にみても日本人は努力家です。MBAの授業は大変といっても、あくまで好きで自分で選んだ道、真の意味での責任もなければ、義務もありません。反対に、仕事は責任もあれば義務もあります。多くの場合、好き嫌いで上司、顧客は選べません。一時帰国によりそんな環境で頑張っている仲間を間近に見ることで、努力家のエンジンに再び火が入るということを、自ら経験しました。

みな高い志で始めるMBA。しかし、ダレの時期はだれにでも訪れます。その主な原因は、社会人モードを失ってしまい、学生気分に慣れ親しんでしまうことにあるのです。そんな時は「現場を見る」か「日本に帰る」ことで気分を切り替え、志をもう一度高くかかげましょう。

MBA終わってみるとあっという間ですが、実際のMBA就学中は教科書に押しつぶされながら、社会から距離を置いて自分に没頭できる、人生でもまたとない貴重な時間なので、そんな時間が充実したものになるよう一助となれば幸いです。


次回は、転職を見すえたポストMBAについて纏めていきます。