September 18, 2018

次世代計算機講座(IPA主催)で最先端を感じる

次世代計算機の最有力候補として注目される量子コンピュータが今現在、どこまで研究・開発が進んでいるのか知りたく、本を読みそして9月15日(土)「情報処理推進機構(IPA)」主催の「次世代計算機講座<入門編>」セミナーに参加してきました。
雨にもかかわらず、100人の定員は満員で会場の座席もほとんど空席がなかったです。セミナー中に講師が、参加者のバックグラウンドを聞いたところ、物理と情報がだいたい半々くらいでした。

入門編ということで、京都大学 藤井先生早稲田大学 田中先生による原理のお話に始まり、企業研究者(富士通、日立)による開発状況まで幅広く知ることができました。
※上記リンク先にそれぞれの先生がスライド、講義ノートを公開してくれています

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量子コンピュータは今どこまで来ている?


京都大学 藤井准教授 スライドより

・1994-1999年の理論の確立と固体素子での量子ビット作成成功が第1期ブーム。それを受けて2011年、量子アニーリング方式の実機開発にD-Waveが成功してから、現在の第2次ブームが始まる。以降、Google、IBM、Microsoft、Alibabaや日本企業による開発競争が加速している。

・量子アニーリング方式においては、D-Wave2000Qが2000量子ビットまで来ている。全ての素子が動いている訳ではないが、一定の組み合わせ最適化問題に対しては、圧倒的な計算速度と省電力性が実証されている。

・万能量子計算を目指す汎用型の量子ゲート方式においては、現在はNISQ(ノイズのある中規模量子計算)デバイスの50bitの量子コンピュータの実現が見えてきた。あるロードマップによると2025-2030年頃には100-200量子ビットまで到達し、量子化学シミュレーションが実用レベルになってくるとのこと。1

・ノイズ低減の為、サンプリング以降の計算ステップはこれまでの古典コンピュータに任せる量子古典ハイブリッド方式について研究が進んでいる。

・同時に、比較的簡単に問題を組めるミドルウェアの開発環境も整いつつある。

何が課題?

・ハード:量子アニーリング方式においては、量子ビットが全結合していないキメラグラフ問題。汎用的な問題への拡張。量子ゲート方式においては、ノイズとの戦い。計算ステップ数とビット数の増加に伴いノイズが増大、精度が出ない。

・ソフト:それぞれのハードに応じた(イジングモデルへの)問題の焼き直しが必要。グラフ変換がムズい。

課題を越えた先には何がある?

藤井先生曰く、量子コンピュータが得意な問題は二つに分類される:
1)そもそも量子と直結する問題(量子化学計算、創薬・材料開発等の物質系シミュレーションなど)
2)量子と関係ないけど、都合の良い構造がある問題(素因数分解、PCA(主成分分析)、SVM(サポートベクターマシン)、クラスタリング、レコメンドシステムなど)

課題を克服していければ、例えば、こんな問題が解けるようになるそうです
・階層的リスクパリティ(HRP)問題 銘柄を相関関係で2つに分類。分類を繰り返してツリー構造を作成、ツリー構造に合わせて投資割合を決定(リスク分散最適化)ポートフォリオのシャープレシオ最大化に寄与
・がん放射線治療における照射最適化 照射領域や照射量を変化させ腫瘍の形に適した照射を実施 がん部位には一定量以上、正常な部位には一定量以下の照射
・生産管理スケジューリング 仕事完了までの時間を最小化
・量子マネー
・強固なセキュリティー認証
・量子コンピュータで1024bitのRSA暗号を破ることはできるか? ゲート方式で1-10憶bitが必要と言われており、上記の課題を解決しながらの実現はかなり難しく実現の目途は経っていない1
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量子コンピュータが広く現実世界に影響を及ぼすようになるカギは、AIブームがそうであったように、影響力のあるプレイヤーによるインパクトあるパブリシティーにあります。実機商品化を受け、ITジャイアントであるGoogleによる1億倍速かったというその性能検証結果発表が今の第2次ブームの世界的うねりを作り出しました。アメリカ、カナダの北米が中心だった開発競争に、Alibabaといった中国のプレイヤーが参戦して状況は加速しつつあります。
四半世紀前にインターネットが登場し世界のコンピュータが繋がり、その後第3次AIブームと呼ばれる機械学習・ディープラーニングでコンピュータが自ら学ぶようになり、世の中は大きく変化しています。便利になると同時に、人間じゃかなわない(やっちゃいけない)コンピュータが圧勝する領域があるという事実を突き付けられました。
科学技術の進化は止まりません。課題を乗り越え、早かれ遅かれ量子コンピュータは、世の中を大きく変えるコア技術となるでしょう。これまで解けなかった問題を解くことができる機械の登場により、これまで以上に人間はコンピュータとの付き合い方を考えなくちゃいけなくなります。人は人らしく、コンピュータはコンピュータらしく、進化、共生を続ける未来にワクワクすると同時に、おいてかれちゃいけないなと思いました。


1. SCAT LINE104 2018 January, 量子アニーリングによる量子コンピュータの現状と将来 東京工業大学 西森 秀稔 教授